こんにちは、浜松市はりを刺さない鍼灸師の佐野です。
医学的に起立性調節障害でなぜ眠れなくなるのか?は明確な原因がわかっていません。しかし、午前中は調子が悪く夜になると元気になって活動的になる子供が多い疾患のため、体内時計にズレが生じていることが原因(概日リズム障害)で、眠れないと考えられます。
今回は起立性調節障害で眠れない原因と治し方について一緒に考えていきたいと思います。是非、最後までご一読ください。
結論:病的に体内時計がズレているので、早く寝ないことで叱らないで下さい。
起立性調節障害のお子さんを診させて頂いていて、起立性調節障害の子供の7~8割ぐらいの子供は夜眠ることが難しくなってくる傾向がありますが、これは体調不良を伴う不登校の進行期にもみられる症状です。
起立性調節障害は何らかのストレス(ストレス原因はその子によって様々)によって自律神経に乱れが生じて、循環器系のコントロールに問題が生じて血圧の維持が出来ないことから、体を起こしているとふわふわする、動悸がする、だるくて動けない、意欲がわかない、めまいや立ち眩みなどを主症状とする疾患です。
血圧などの循環器系に問題が生じていない場合には、血圧正常型の起立性調節障害と診断されるか、自律神経の乱れ(自律神経失調症・不登校の進行期)として診断される場合があります。
最初は朝起きられないことから、親御さんが子供の異変に気が付かれてご来院されることが多いですが、頭痛、腹痛、吐き気、だるさ、ふらつき、めまいなどの体調不良が先に時々出るという状態が少しずつ進行してだんだん朝起きられなくなってくる子供と、起きられなくなってしばらくしてから体調不良が出てくる子供がいます。
初期は睡眠時間が延長して10時間~14時間ぐらい睡眠をとらないと眠気が強く、体調不良になっている子供が多いですが、睡眠時間が延長していない子供の場合は夜眠れないということはあまりありません。
お話を伺うと、症状が出る少し前に眠気が強いまま無理して起きている期間があることがあり、そのまま頑張り続けた子供が徐々に睡眠不足が溜まっていって、頭痛、腹痛、吐き気、気分が落ち込むなどの症状が出てきていることが多いようです。
その為、体調不良がある場合には睡眠不足の解消を優先して睡眠を可能な限り長くとってもらうと体調不良が改善してくることがあります。
また、体調が午後から夜にかけて良くなってくると、気分も良くなってきて活動的になって眠れなくなっている場合もあるので、むやみに叱ってストレスをかけないようにしてあげて下さい。
体内時計の乱れは単純に睡眠時間がズレてしまうだけでなく、午前中の活動時間でも交感神経が興奮せず調子が悪いことが原因だと考えることもできます。
コルチゾールの日内変動に問題がある?
起立性調節障害は血圧の維持が難しくなってしまう疾患ですが、血圧の維持に関係するホルモンが多く関わっています。
その中でもストレス反応の中心的なホルモンであるコルチゾールが起立性調節障害の成因と深く関わっていることが考えられます。
コルチゾールはストレス反応の際に分泌されるだけでなく、日頃から活動的にさせる正常な機能として、午前中に分泌量が上がり夕方になると分泌量が低下してくるという日内変動を持っています。
午前中のコルチゾールの分泌は起床時コルチゾール反応(CAR反応)と呼ばれるもので、目覚める直前に体内時計に従って、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と目から光(視交叉上核が反応)することでコルチゾールの分泌が上昇すると考えられています。
コルチゾールには血圧を高める、血液中に糖や脂質を増やしてエネルギーを細胞が利用しやすい状況を作り出す働きがあり、この日内変動があることで朝起きてから活動的(元気)になり、夕方から夜にかけて活動量が低下してくる(疲れてくる)といった活動のリズムを作り出しています。
起立性調節障害の子供の多くは午前中が調子が悪く、夕方から夜にかけて活動的になって元気になってくる子供が多いです。
一日中調子が悪い子供もいる為、その場合にはコルチゾールが1日を通じて十分分泌されていない可能性が考えられます。
起立性調節障害の子供のコルチゾールに関する研究データはありませんが、夕方から夜にかけて体調が良くなってきて、夜遅くになるまで眠くならないことを考えると例えば以下のようなコルチゾールの分泌をしているのではないかと思われます。
交感神経を高めてエネルギーの供給を高めるコルチゾールの分泌が上昇する時間帯がズレてしまう為、午前中はエネルギーがしっかりと供給されないことから血圧が維持できない、だるいなどの症状が出やすくなります。
午後に入るとコルチゾールの分泌が促進されてくるため、エネルギーがしっかりと供給されるようになり、元気になってきます。
しかし、午後になって元気になってきても低下までは時間がかかる為、寝る時間になってもエネルギーが供給され続けて元気、テンションが高いなど活動的な状態が夜中まで継続し、入眠できる時間が後ろにずれこんできやすくなる可能性があります。
体内時計を管理するメラトニン
コルチゾールは体内時計に従って分泌されますが、この体内時計を管理しているのが、脳の松果体という場所から分泌されるメラトニンというホルモンです。
メラトニンは朝、太陽光(ブルーライト)が目に入った時間から14~16時間後にセロトニンが酵素の働きにより、変換されて睡眠の誘導、概日リズム(体内時計)の形成に関与します。
メラトニンの原料がセロトニンの為、セロトニンが不足するとメラトニンが不足しやすくなります。
セロトニンは自律神経を調節する神経伝達物質である為、セロトニン不足により自律神経症状が合わせて起こってきやすくなります。
メラトニンは目から入ってくるブルーライトに反応して目の奥にある、視交叉上核が活動することでセロトニンからメラトニンへの変換酵素の働きを停止します。
この光が目に入るという刺激に反応することで朝は目から光が入ると覚醒し、夜は目から入る光の量が減る為、メラトニンが分泌されやすくなって睡眠を誘導します。
メラトニンがタイミングよく分泌できなくなっているだけであれば、メラトベルというお薬で睡眠周期を調整して体内時計が揃ってくることもありますが、セロトニン不足まで加わってきてしまっている場合には、自前のメラトニン合成が不足している為、薬を飲み続けないと維持できないという状態となります。
睡眠障害からの起立性調節障害
睡眠リズムが後ろへズレる病態を睡眠相後退症候群と呼びます。
起立性調節障害を発症しやすい思春期の睡眠障害は原因不明の突発性睡眠障害と、生活習慣やストレスが原因となって発生する睡眠障害の二種類が存在します。
原因不明の突発性睡眠障害の場合には、原因がわからない為、治療法がありませんが、心身の成長に伴って自然に改善する事が多いとされています。
生活習慣や何らかのストレスが原因となっている場合には、生活習慣を改善し、ストレス原因を取り除くことで改善が可能です。
生活習慣の問題で一番多いのは、夜中に目から強い光を入れていてメラトニンへの変換酵素の働きが低下したり、デジタルデバイスの長時間使用による脳の興奮状態の継続による入眠困難です。
日没後も明るい場所で過ごしていたり、TVやタブレット、スマホ、PCなど画面から光が目の中に入ってきてしまう環境で生活をしていると、セロトニンからメラトニンへの変換酵素が十分に働かず、睡眠の誘導がされない為、眠りずらくなったり、睡眠の質が低下してしまいます。
また、タブレット、スマホ、PCなどの画面を操作するタイプのデジタル機器は入眠を邪魔することがわかっています。
夜中までの受験勉強も含め、このような状態での生活を長期間続けていると入眠できていたとしても、デジタル機器を睡眠時間を削って使用していることによる睡眠時間の不足、睡眠の質が低下した状態での睡眠により、睡眠負債が溜まっていきます。
睡眠負債はストレス反応を引き起こすことになる為、セロトニン量の低下につながり、その結果セロトニン不足から、メラトニン不足を引き起こして体内時計がズレた状態が維持されやすくなってしまいます。
ストレス反応が原因となっている起立性調節障害
起立性調節障害の改善はリラックス状態をいかに作り出せるか、といったところにかかっています。
物理的・化学的・生理的・心理社会的な要因からストレス反応が起こり、交感神経有事の状態が維持されて起立性調節障害が引き起こされます。
ストレス反応の繰り返しによってセロトニン量の低下(枯渇)やそれに伴うメラトニンの低下、ストレスに対抗するために分泌され続けたコルチゾールの機能低下(枯渇)などが起立性調節障害の症状を引き起こすこととなります。
発病後に早く寝ないからと言って寝なさい!と叱ると、ストレス反応を引き起こすことになる為、逆効果になります。
心理的なストレスがかかっている
小学校高学年ぐらいから容姿を気にするなど他人からの視線を気にしたり、成長によって徐々に人間関係が複雑化してきます。
その複雑化した人間関係についていけず、それがストレスになるケースが良く見られます。複雑化した人間関係から受けたストレスによって学校がある日に特に体調不良が出やすい傾向があります。
不登校の問題と併発しやすい部分です。
コミュニケーションスキルの未熟さ
例えば家族の仲が悪い、過干渉または無関心な大人がいる家庭環境で育った子は、健全な人間関係を他人と結ぶことが苦手になります。
私達は人間関係の基本を母親との1対1の関係性からスタートして、徐々に父親、兄弟、祖父母など、成長する過程で徐々に複雑化しながら学んでいきます。
そこで学んだコミュニケーションをベースに保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校と徐々に家族以外とも人間関係を構築していきます。
しかし、初期に学んだコミュニケーションが、言葉ではなくお互いの顔色を伺うような関係性の家族で育ったり、家族以外とのコミュニケーションをとる練習段階で過度に家族が代理でコミュニケーションをとるなどをしてしまうと、自分で人間関係を構築していくスキルが未熟なままになりがちです。
コミュニケーションスキルの未熟さが人間関係に強いストレスを感じさせる原因になる場合もあります。
また、一時期SNSで話題になったスマホ子守をして成長した子供はスマホ子守をせずに成長した子供に比べてコミュニケーション能力が低下しやすいことがわかっています。
部活、習い事、勉強が負担になっている
部活や習い事で練習や上下関係が本人にとって厳しすぎたり、休みがほとんどない状態で肉体的にきつい状態が継続している。
塾や学校の勉強が自分の実力以上の学力を求められて、毎日ずっと勉強していて負担になっていることがストレスになっている場合もあります。
自分でこれらのことが負担になっていることを認識できていない場合もあります。
負担になっていることを認識できている場合でも、
先輩や同級生からどう思われるのかが不安で言えない。
今後の進路に影響するからやめられない。
今まで辛くても続けてきたから無駄にしたくない。
今まで継続させてくれた親に申し訳ない。
など、自分からもう辛いからやめたいと言い出せずにストレスをため込んでいることが原因で、夜眠れなくなっている場合があります。
部活をやめたり、学校を変えたり(学力レベルに合った学校へ転校)、塾や習い事をやめたということを契機に、夜もよく眠れるようになり、一気に症状が改善するケースは珍しくありません。
首肩こり、胃腸の不調など生物的ストレスがかかっている
骨格の形状が猫背になりやすい。おなかの調子が悪い。変な姿勢でスマホやタブレットをみている時間が長いなど、子供であっても骨格形状や体質、生活習慣によって首肩こりがひどく出ている子供がいます。
そういった子供は首肩こりという身体ストレスが慢性的にかかっている状態になり、そのストレスによってリラックスして眠りに入ることができないため夜眠れないということが起こります。
鍼灸を行うなどして首肩こりの改善を行いながら、首肩こりを再発させないように生活習慣や姿勢を正していくことで改善していきます。
改善可能な生物的ストレスが原因の場合は、比較的簡単に改善が可能です。
ワーキングメモリが少ない
遺伝的に情報を一時的に記憶・整理するためのワーキングメモリが少ない子供の場合は、普通の子供が難なくこなしている日常生活で脳に大きな負担をかけることがあります。
例えば、ワーキングメモリが少ないことで作業の手順を組むのが苦手であったり、時間をみて行動をすることが苦手、複数人話している状況だと誰の話を聞いていいのかわからなくなるなど、普通に生活していて脳に大きな負担がかかります。
こういった、発達障害のグレーゾーン(はっきりとした発達障害ではない)の傾向の子供は普通に生活するのも頑張ればできるものの、脳がオーバーワークになりがちでストレス反応が体の中で起こっていることが多くあります。
それによって緊張状態となり、眠りずらくなってしまいます。
偏食などにより栄養が偏っている
肉・魚などのタンパク質類が匂いが嫌いでほとんど、食べられない。野菜が苦手でビタミン類や食物繊維が不足した食生活をしている。
両親が共働きで冷凍食品やカップラーメン、レトルト食品などで食事を済ませてしまっていると、リラックスするのに必要なセロトニンやセロトニンから作られるメラトニンなど睡眠に必要な神経伝達物質を作ることができなくなり、睡眠周期が乱れることにつながります。
これにより、夜眠れない。変な時間に眠くなるなどの変調が出てきてしまいます。
運動不足によって寝付けない
起きている時間はゲームや動画をみていて、ほとんど体を動かしていないと、身体的な疲労がほとんどないので、眠くなりません。
ゲームをしたり動画を見ると神経は疲労するため、疲れたような錯覚はするのですが睡眠は身体疲労と精神疲労が同じぐらいになった時が最も寝やすい為、だるさで動けない、立ち眩みがするなどの場合であれば寝た姿勢で足にアンクルウェイトをつけて動かすなど、身体疲労を増加させることで眠りやすくなります。
しかし、過度に動かすと疲労から睡眠時間が延長して生活リズムを崩しやすいので少しずつ行うことが大切です。
光を適切な時間に浴びることができていない
朝、太陽光が目に入った光に反応して、脳内でのセロトニンの合成が開始されます。
これが現在の医学で体内時計を合わせる唯一の方法です。
健康な人であればこの16時間後ぐらいにセロトニンがメラトニンに変化して眠気を引き起こします。
しかし、朝起きられないため、昼頃まで寝ていて光を目から入れないことで、メラトニンに変化する時間が夜中とかになってしまい、その時間から眠るためまた朝に目から光が入らないという悪循環になります。
対策としては、朝起きあがらなくても目から光を入れて体内時計合わせだけは行ってから、二度寝というパターンにしていくことでリズムを合わせます。
しかし、睡眠障害が根底にある場合にはこういった体内時計のシステムそのものが上手く機能しなくなっているためあまり効果的ではありません。
血糖が不安定で交感神経が刺激されて眠れない
生活リズムが乱れると食事の用意もまばらになるため、血糖が不安定になりがちです。
血糖が下がると交感神経を刺激します。
起立性調節障害で眠れない場合には夜に低血糖気味になっていることもあるので、その場合には寝る時間の2時間前ぐらいにGI値の低い食品で補食(軽い食事)を行うようにして、それ以外にもあまり空腹時間を作らないように起きている時間にも補食をいれて食事回数も増やすと血糖が安定して眠りやすくなる場合があります。
まとめ
起立性調節障害で朝起きられなくなってしまう原因は体内時計のズレが関係していますが、睡眠の質が悪くなって睡眠時間が延長している場合もあります。
夜眠れなくて起きているので、早く眠らないから起きられないと叱ってストレスをかけないように注意が必要です。
午前中調子が悪い原因はコルチゾールの日内変動に問題があることが考えられます。
コルチゾールの日内変動はメラトニンの作用による体内時計の影響を受ける為、メラトニンの作用を整えることが大切です。
基本は朝起きて目から光を入れ、夜は目から強い光を入れないことが大切になりますが、ストレス反応などもコルチゾールの分泌に影響する為、ストレス管理も大切になります。
当院での改善をご検討の方は起立性調節障害、不登校をご覧ください。
遠方で来院が難しいけれど、お子さんについて相談したい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。