ブログをご覧頂きありがとうございます。浜松市はりを刺さない心身堂鍼灸院の佐野です。
当院へは多くの方がパニック障害で来院されますが、大きく今回初めてパニック障害になって来院された方と、以前にパニック障害になりその時は病院で薬物治療を受けて寛解したものの再発してしまい来院される方の2パターンがあります。
パニック障害の5年後の再発率は50%以上と高いことが報告されています。
今回はパニック障害の再発率が50%以上と高い理由と対処法について一緒に考えていきたいと思います。是非、最後までお読みください。
結論:治療を中断していることから再発率があがっている可能性が高い
パニック障害は50%以上が再発するという研究(Yonkers KA、et al, Am J Psychiatry 1998)があり、特に男性よりも女性に多いと報告されています。
50%というと2人に1人は5年以内に再発するということになりますので、結構高い確率だと思いますが、パニック障害になったからあなたも50%の確率で再発すると考えて絶望する必要はありません。
なぜなら、50%という高い確率で再発しているという研究に用いられたデータが、そもそも治ったと定義していいのか疑問が残る人を多く含んでいるデータだからです。
当院へも過去に一度パニック障害になったことがあり、日常生活に支障が出ない程度までよくなって生活できていたものの、以前のように症状が出てくるようになって来院される方も多くいらっしゃいます。
ふとしたことから一瞬以前の不安や恐怖が頭によぎったことから一気に再発してしまった方、全く何の原因も見当たらない方、人間関係のトラブル・就職・結婚・昇進、カフェインやお酒などの神経に作用する飲み物の過剰摂取、睡眠不足、オーバーワーク、出産・育児などの長期的または強いストレスが加わったことから再発するなどそのきっかけは様々です。
ほとんどの方は、なんらかの強いまたは長期的なストレスがかかってしまい、その対処が遅れたことでストレスの許容量を超えて再びパニック症状に悩まされる方が多いようです。
再発されて来院された方に詳しく前回の治療終了について伺うとそもそも治ったと言えるような状態ではないけれど、一番つらい状態からは脱出した状態になるとそこで治療を終了して過ごしてきたという方がほとんどです。
例えば、若干の広場恐怖症(電車に乗れない)などは残っているが、普段の移動は車の為、生活上支障がないので治療せずにそのままになっている。
薬は使用していないがもしもの為の頓服薬を持ち歩き続けている。
SSRIをの断薬できた時点で病院へ行かなくなったなど、治療がうやむやに終わっている方があまりにも多い印象です。
再発と再燃の違いとは?
再発とは一度完全に治癒したが、再び悪化した状態を言います。
手元に薬もない状態で、行きたいところへは基本的にどこにでも行くことが出来、ストレスへの対処法も上手に行うことが出来、食事・睡眠・運動・ストレス管理が自分で維持・管理出来ている状態の方が再びパニック障害になってしまった場合を指します。
再燃とは症状自体は一旦落ち着いているが、完全に治癒せずに再び症状が強く出るようになった状態を言います。
状態としては、薬を飲み続けていないと日常生活が維持できない、薬は飲んでいないけれどお守り代わりとして頓服薬を持ち歩くことをやめられない、電車などに載れるが入り口付近でないと苦しくなってしまうなど、日常生活に若干の不便や制限は受けるけれど生活そのものに大きな支障を受けずに生活できる状態です。
今の生活パターンの行動範囲内の日常生活は送れるものの、パニック障害の影響が全くない方と比べると制限や不安要素が存在している状態が維持されていて、再びパニック症状が強く出てくるようになった状態を指します。
再発してしまって来院される方のほとんどは、症状が落ち着いた段階で治療を終了していることが多く、再発というよりも再燃していると考えられます。
前述した研究では広場恐怖が残っている方も含まれている為、再燃の懸念が高い方もデータに含まれており、再発率50%以上と報告されていますが、実際には治療が完了する前に中断してしまっている方も多くデータに含まれる研究報告なのではないかと考えることができます。
5年後の再発率50%を下げる為には?
パニック障害の治療には大きく症状の軽減を図る1段階目と不安感などの症状に対して対応できる感覚(自己効力感)を身に着けていく2段階目があります。
治療開始直後は不安症状を軽減することが主な治療目標になる為、当院のように鍼灸や整体を用いる、病院の治療のように投薬治療によって症状を軽減していく、どちらの方法でもある程度の効果が得られれば問題はありません。
症状を軽減することに成功して症状が軽減されてきたところで、今度は不安を自分でコントロールできるようにして、不安に対する抵抗性を高める為の心理療法が必要になってきます。
しかし、この治療に取り組み始めたところで治療をやめてしまう、そもそも2段階目の治療を受診している医療機関が提供していないことなどから再発率が高くなってしまっているのではないかと思われます。
再発率を下げる為には2段階目の治療まで行った段階で治療を終了することが大切になります。
2段階目の治療まで進められない原因
2段階目の治療まで進められない原因は大きく病院側の経営構造的な問題と患者さん側の心理的な負担による問題の2つが存在します。
経営構造的な問題
2段階目で行う心理療法は病院では公認心理師・臨床心理士が担当することになりますが、心理療法の専門家を雇ってカウンセリングや心理療法を行える体制を作っている精神科・心療内科の数がもともと少ないことがあげられます。
心理療法はパニック障害の改善には非常に有効であり、治療の要といってよいものです。
しかし、心理の専門家を実際の臨床現場で雇い、保険の適応範囲内で治療を行おうとすると保険点数が低いため制度上、病院経営にとってはマイナスに働いてしまう場合があります。
その為、心理師を置いていても病院経営の立場からは形式だけになっていたり、そもそも心理師が在籍していない医院も多く、薬の処方を淡々と繰り返しているという精神科・心療内科の方が多数派かもしれません。
2段階目の治療を医師が処方ついでに1~2分の間に行う生活習慣上のアドバイスだけとなってしまっていることも多いようです。
余談ですが、私がパニック障害になった時に受診した精神科では、家族構成を医師に尋ねられた以外の心理療法らしい心理療法は何もありませんでした。
患者さんの心理負担
パニック障害の症状を改善できても、不安感情を自分がコントロールできるという感覚(自己効力感)が身についてこないと、本質的な改善にはなりません。
不安感情が治まったからと言って治ったわけではなく、仮に再び不安感情が出てきたとしても冷静に対処できるようになって初めて治ったと言えるのがパニック障害の治療です。
不安感情を自分がコントロールできるようになるためには、不安感情を引き起こす場面にあえて触れてそこで出てきた不安感情をコントロールする技術を身につける心理療法を行う必要があります。
パニック障害で苦しまれている方は、不安感情を感じたくないからこそ治療しているのに、根本的な治療には不安感情を感じることをあえて行うという苦痛を患者さんに強いる必要があります。
患者さんは「不安感情」から逃れて楽になりたいという希望で治療を依頼しているのに、「不安感情を誘発してコントロールできるように訓練する」治療が必要になるという心の性質上どうしても生じる矛盾が2段階目の治療を思いとどまらせてしまう心理的なハードルとなります。
薬で辛さが軽減できている、いざというときは頓服薬を飲めばやり過ごせる、日常生活では不安を感じるものに近づかなければ不安感情に悩まされることがないという、当面の辛さはやり過ごせているという1段階目で作った症状を和らげるという状態のままにとどまった方が、患者さんにとって心地よい状態を短期的には維持できることが多い為、このままで良いと楽観視しやすくなってしまいます。
再発までには時間がかかる
1段階目では鍼灸であれ薬物療法であれ、脳の機能を取り戻すようなことを行います。
その結果として、脳の感情の抑制系の機能がある程度回復して不安感情を抑え込めるようになって症状が落ち着いてきます。
これを治ったと勘違いしてしまう方が一定数います。
しかし、これは鍼灸や薬物の手助けによってそのような状態になっているだけなので、個人差はありますが、ここで治療をやめると徐々に元の状態へと戻っていきます。
2段階目の治療は、自分で脳の機能が高い状態を維持できるようになるために必要な治療なのです。
鍼灸や薬物をやめたらすぐに症状がぶり返す場合にはわかりやすいのですが、神経伝達物質の量が徐々に不足していくことで症状がぶり返してくるため、再発までにタイムラグが生じます。
長い方の場合は数ヶ月から数年この状態が維持されて再発という形を取ることになります。
調子が悪くなるたびに治療を受ければよい?
1段階目の治療を受けて、通院をやめて数ヶ月から数年過ごして再発してから、もう一度治療を受けてを数ヶ月から数年おきにやっていけば良いのでは?と考えられる方も多いかもしれません。
実際、臨床していて「悪くなったらまたお願いします」と自分で治療を終了される方は一定数いらっしゃいます。
うつ病やパニック障害は脳の病気の為、物理的に神経細胞にダメージが発生します。
体のどの部位にも言えますが、一度大きなダメージを負った場所は治ったとしても以前と同じだけの機能が戻らないことは珍しくありません。
何度も再発を繰り返すということは、神経細胞に何度も大きなダメージを与えているのと同じため、神経の機能が徐々に低下していくことになります。
再発を繰り返すと慢性化し、治療に反応していきずらくなっていき、治ったとしても以前と比べると機能が低下していきます。
再発するたびに1段階目を行うのはお勧めできません。
それでも医療の選択権は患者さんにある
どのような治療を選択するのか?は基本的には患者さん自身に最終的な決定権があります。
その為、患者さんが2段階目の治療を行わないことを希望すれば私たち医療者は何も行うことはできません。
当院へ来院される方でも、1段階目が終了してとりあえず症状が落ち着いてきた段階で自分で治療を終了される方も一定数いらっしゃいます。
再発率についてお伝えすることは、患者さんを脅すような形にもなってしまう為、当院では何も伝えずに患者さんの意思を尊重しています。
1段階目しか終わっていない状態の方が、「前施術してもらって治ったと思ってたのにまたパニックの症状が出てきてしまった」と連絡が来ることは多いですが、2段階目まで終わった方で連絡を頂くことはほとんどありません。
パニック障害の再発率50%という高さは、1段階目しか終わっていない場合なのではないかと考えられます。
まとめ
パニック障害の再発率は50%と高いことが報告されています。
しかし、パニック障害の症状が残った状態の方やしっかりと再発予防の為の治療まで完了していない方を多く含んでいるデータの為、症状を落ち着かせただけで治療を終了した場合の再発率である可能性が高いです。
パニック障害が再発するきっかけは様々ですが、パニック障害について正しい知識を身につけている状態であれば予防可能だと思われます。
臨床していて再発で来院される方のほとんどが、十分な治療を前回のパニック障害の発症時に受けていない印象があります。
再発と再燃を分けて考えることで、パニック障害になったからと言って私も高い確率で再発するのだと悲観的になる必要はありません。
パニック障害の治療には症状を落ち着ける1段階目の治療と不安感情をコントロールできる感覚を身につけていく2段階目があります。
多くのケースで1段階目までの治療しか受けられていない方が再発していますが、その原因は病院の経営構造的な問題や患者さん側の心理的な負担から2段階目の治療が行われずに治療が終了していることがあります。
1段階目の治療が終わるとある程度の日常生活は可能になる為、悪くなったら又治療を受ければいいと考えて、2段階目の治療の必要性が薄れて患者さん自身のモチベーションが低下する傾向があります。
しかし、1段階目の治療と再発を繰り返していると慢性化したり、徐々に回復するレベルが低下していくためお勧めできません。
それでも、病気はその方の人生に関わる問題なので、私達医療者は患者さんの意思を尊重します。
当院での改善をご検討の方はパニック障害をご覧ください。
遠方で来院が難しいけれど、カウンセリングを受けたいという方はオンラインカウンセリングをご利用ください。