ブログをご覧頂きありがとうございます。浜松市はりを刺さない心身堂鍼灸院の佐野です。
出産をしてから、パニック障害やうつ病(産後うつ)を発症される方も多いですが、そこまで重症ではなくても、肩こりや頭痛、動悸、耳塞感、胃痛、情緒不安定などといった自律神経の乱れを主体とする症状に悩まされる方が一定数いらっしゃいます。
病院の検査でも特別原因が特定できないことも多く、体調がつらい中での子育てはとても大変です。
今回は出産後から持続している自律神経系の体調不良について一緒に考えていきたいと思います。是非、最後までお読みください。
結論:妊娠・出産・産後によるダメージが大きい為、ダメージを回復させる必要がある。
現代では医療の発達により安全に出産が可能になったこともあり、母体へのダメージについては少し軽く考えられ易い風潮が出来上がっている雰囲気がありますが、医療が発達したからといって、母体へのダメージが極端に軽くなったわけではありません。
以下は厚生労働省の人体動態統計の妊産婦死亡率のデータです。
統計データを見る限り、命に関わる身体ダメージへの医療介入技術が向上したことは間違いありません。
しかし、妊娠中・出産・出産直後の負担も全てが軽減されているわけではありません。
特に自律神経系がもともと弱い方の場合は、平均的な妊娠・出産・産後という経過だったとしても、神経系がそのストレスに耐えきられず、破綻してしまうことは十分にあり得ます。
また、妊娠・出産を経験した女性の脳は最低2年間は変化することがわかっています。(参考文献:Pregnancy leads to long-lasting changes in human brain structure)
これは一つの適応の一種なのですが、子育てに向いた脳に変化する為、そのことを知らずに、以前と同じような生活をしようとする。
産後すぐに働きに出ないといけないなどの理由から変化した脳の使い方に慣れないまま社会復帰してしまうことで、より強いストレスがかかり、産後の体調不良を引き起こすきっかけとなることもあります。
妊娠・出産・産後を通して自律神経系が破綻してしまっている場合には、一度十分な休養を取ることで神経系を回復させる必要が出てきます。
自律神経にとっては過酷
私達の自律神経系は非常に強いストレスや長期的なストレスに対しては、有効な対抗策を持っていません。
ストレスに対抗するために獲得した身体の仕組みは捕食動物に狙われているなど、短期的なストレスであることを前提に獲得したため、短期的なストレスに対しては効果を発揮するのですが、長期的なストレスには脆弱で自律神経系に悪影響が及びやすく作られています。
そのため、何ヶ月にもわたる妊娠生活では、つわりに始まり、ホルモンバランスの変化による心身の変化、子供が大きくなるにつれて物理的にお腹が重くなっていく、お腹に重みがあるため腰痛に悩まされるなどのストレスが妊娠している10ヶ月の間に継続的にかかり続けることになります。
それだけではなく、母親になるという役割の変化や経済的な不安、パートナーとの関係性など、心理的な不安要素も多くなります。
出産という強い痛みを伴い且つ、身体への物理的ダメージを受けながら何とか出産した後は、授乳で満足に眠ることもできない産後の生活が継続します。
トータル1年以上もストレスにさらされ続けることになるのですが、こんな長期間私達の自律神経系は耐えられるようにできていません。
では、どうしてきたのか?というと、私達人間は集団で生活するという方法でこの問題に対抗してきました。
集団で生活し、支え合うことで母親にかかるストレスを軽減し、安心感を与え、多くの大人で子育てを行うという戦略で本来は乗り越えることが難しい妊娠・出産・産後の長期的なストレスに対抗してきたと考えられます。
しかし、社会構造が変化して、両親や兄妹とは別居しているのが普通で、大人数でなければ難しい、かなり手のかかる子育てを少人数で行うようになってしまいました。
その結果、自律神経系があまり強くない方ほど、産後に体調を崩してしまい、しかもそれが継続するという事態を引き起こしてしまっています。
妊娠・出産により脳が大きく変化する
出産は単純に子供が生まれるというだけではなく、母親自身の脳に大きな変化を引き起こします。
出産により脳全体は7%程度萎縮(参考文献: 平成27年度国際交流助成(海外渡航) 公益財団法人中山人間科学振興財団活動報告書 2015)することがわかっていますが、共感を司る脳の部位は肥大して機能が高まることが知られています。
進化論的に考えると、子育てに向いた脳に変化する適応なのではないか?と考えることができます。赤ちゃんに対してより思いやりを持てるようになったり、常に赤ちゃんへの気配りがしやすい脳へと変化します。
また、産後の女性は赤ん坊の泣き声に敏感になることが知られています。
よく、赤ちゃんが泣いていても夫が全く気が付かないで寝ているといった話題が出ますが、男性側には女性のような脳の変化が起こらないため、赤ちゃんの泣き声に対する反応性が脳のレベルで母親と比べて著しく低いのです。
脳が変化したにも関わらず、すぐに仕事に復帰しなくてはいけない場合は職場復帰してから、今まで簡単にこなせていた業務に時間がかかる、単純なミスを繰り返すようになるなど、出産により子育てに適した脳へと変化した状態で業務を行うことになります。
このような脳の変化は最低でも2年程度は持続すると報告されていますが、自分の仕事に関する能力の低下にショックを受け、それがストレスになったり、周囲も以前と同じように働けると考えてしまって以前と同じ仕事量を割り当ててしまい、オーバーワークになってしまうこともあります。
産後の体調不良の回復の難易度は高い
産後の体調不良の回復は非常に難しいことが多いのが正直なところです。
なぜなら、産後から1歳半ぐらいまでは生まれてきた子供にとってはどちらかの親と愛着を形成して、人生を左右する脳の発達に非常に重要な時期であるからです。
経済的に恵まれているご家庭や元々親兄妹と一緒に住まわれている方であれば、子供の愛着対象を母親以外の人が担うことでこの問題を回避できます。
しかし、育休が推奨されるようになったとはいえ、一般的なご家庭であれば夫は仕事に行って経済的な面で家族を支える必要があることがほとんどです。
また、ある程度子供の愛着対象が母親に定着してしまっていると、途中で変更することが難しい為、母親がどれだけ悪化したとしても無理をし続けるか、子供の脳の発達に悪影響があることをある程度割り切って祖父母などが代理を務めるといった、究極の選択を迫られることになります。
しかし、多くの場合、母親がある程度の無理をしながら生活をしていくということが、現実的な落としどころになり、母親が回復するための環境を整える難易度が高いのです。
また、仮に祖父母や兄妹の協力を得られ環境を整えられたとしても、母親として子供に十分な子育てができていないということに自分自身をせめてストレスを感じ、環境が整えられても心理ストレスがかかってしまって適切な休養にならないという状況に陥りやすくなります。
産後の体調不良への対処法とは?
産後の体調不良への対処法は、現在置かれている状況により大きく異なります。
個別の事情に合わせて対処をしていくことにはなりますが、自律神経を悪影響を与えるストレスの大きなものを取り除くことと、神経の機能を高める生活習慣を実践していくことが大切です。
夫一人だけで、家事に育児に経済的にとすべてカバーできませんので、親族から十分な協力や経済的な援助が受けられやすいように、体調の異変を感じたなるべく早い段階から環境を整備することが大切です。
祖父母、兄妹、友人、保育施設など、あらゆる資源を活用して母親にかかっている負担を軽減して、十分な休養をとることがとても大切です。
一人で悩まず助けを求めてください。
睡眠不足を解消する
夜間の授乳により、睡眠不足になっている場合には、搾乳しておき他の家族が夜間の授乳対応することで母親の睡眠時間を確保するように努めましょう。
前述したように母親は赤ちゃんの泣き声に敏感になっている為、可能であれば、部屋を分けて泣き声が聞こえないようにしてあげたほうが良いことが多いです。
場合によっては耳栓などの使用も検討することが大切です。
身体が緊張状態になってしまって眠れない場合には、授乳期間中は薬理成分が母乳へ移行する心配もある為、睡眠薬などは使いにくい部分もあります。
鍼灸や整体などで体を緩めてもらって眠りやすい身体のの状態に整えておくことも大切ですが、それでも眠ることが厳しい場合には人工乳へ移行し、薬の使用も検討しましょう。
人工乳は栄養価的には問題ないのですが、赤ん坊の免疫は母乳に含まれるIgAによって守られている側面も一部あります。
しかし、初乳から10日程度で母乳中のIgAは低下していくため、出産後10日間ぐらいだけ母乳を意識し、早々に人工乳に切り替えることも検討して問題ありません。
簡単に食べられるタンパク質を意識しましょう
子育てに忙しくなると、食事は保存がきいて手軽に食べられるものが中心になっている方が多くなり、子供が成長して、通常のご飯が食べられるようになってくると子供の残り物を食べることも多くなります。
神経が正常に機能するためにはタンパク質はとても重要な栄養素です。
手軽にすぐにお腹を満たすことができるパンなどの食事が多くなりがちですが、糖質に偏った食事や短時間での食事は血糖値を不安定にさせ、神経の働きを悪化させます。
肉・魚・卵・チーズなどの動物性タンパク質と植物性タンパク質である豆類を食事の中に取り入れ、なるべくよく噛んで食事をとるように意識しましょう。
場合によってはプロテインなども併用してタンパク質不足を補っていくことも大切です。
ウォーキングを行いましょう
妊娠中毒症など、安静が必要な状態を除いて、妊娠中からウォーキングなどで運動をして体力を維持しておきましょう。
有酸素運動を行うと細胞の中でエネルギーを生み出す役割をしているミトコンドリアの数が増えることがわかっています。
私達が感じる体力とミトコンドリアの数には密接な関係があります。
現在は産後でもすぐに歩くように言われていますが、体を動かすことは自律神経を正常に機能させるうえでとても重要です。
なぜなら、神経細胞が機能するにはミトコンドリアがエネルギーを生み出す必要があるからです。
細胞内のミトコンドリアの数が多いほど、自律神経の神経細胞が利用できるエネルギーに余裕が生まれるため、正常に機能しやすくなります。
逆にミトコンドリアの数が少ないと、利用できるエネルギーが不足しがちになり、神経細胞が限られたエネルギーだけを利用していくことになり、正常な機能を果たしずらくなります。
ミトコンドリアは運動不足によって自然に減少していくため、産前から産後にかけて継続的にウォーキングを行うことがおすすめです。
大人と会話したり、一人で過ごす時間を確保する
子育て中は子供に全神経を集中することになるため、大人と会話できない、一人でくつろげる時間が取れないといったことから、孤独感を強く感じやすい傾向にあります。
また、子供と二人だけでずっと過ごしていると、世界観が狭くなりやすくなる為、極端な思考に陥ってしまいがちです。
孤独は人体にとってはとても強いストレスになりますし、世界観が狭くなると白黒思考になりやすくなるので、友人などの大人と会話する時間や一人でカフェで少し落ち着く時間をとることで、バランスをとることも必要です。
産後約2年間は業務能力が落ちることを知っておく
妊娠・出産という過程を経ることで女性の脳は子育てに適した脳へと変化し、その状態は約2年間は継続することが報告されています。
これが産前の時と同じように働くことを難しくしている原因となりますが、今までこなせていた仕事がしばらく思ったようにできないなどの弊害を引き起こします。
2年程度経過してくると脳の萎縮の一部(海馬)は回復して来ることがわかっています。
産前と比べて集中や記憶力が低下するマミーブレインといわれる現象がありますが、産後の女性で認知能力の低下がみられないことから、こちらはどちらかというと睡眠不足などの自律神経症状の一つとして考えられています。
ひどい場合には産後うつ病などになっている場合もあるので、おかしいと思った時点で専門家に相談することは大切です。
まとめ
出産をしてから体調不良が起こることは珍しいことではありません。
なぜなら、妊娠・出産・産後は長期的なストレスがかかり続ける為、自律神経にとってはダメージを受けやすい状態になるからです。
また、妊娠・出産により女性の脳が子育てに適した脳へと変化するため、その変化に対しての適応がうまくいかないとより強いストレスを受けやすくなります。
産後の体調不良の回復は非常に難しいことが多いです。
その理由は子育てが始まってしまうと、母親の回復に必要な十分な休養をとることが物理的に難しくなってしまう為です。
しかし、体調不良が始まってしまっている場合には、なるべく速やかに母親の負担を減らして休息をとれる環境づくりを行うことが大切になります。
その為には祖父母、兄妹、友人、保育施設など様々な資源を活用する必要があります。
基本は食事・睡眠・運動を整える事ですが、それだけではなく妊娠・出産に伴う脳の変化を理解して無理をしないこと、子育てによって狭い世界観に閉じ込められて無用な心理ストレスにさらされないように注意が必要です。
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