うつ病、パニック障害、自律神経失調症は治るのか?
結論:医学では完治ではなく寛解を目指す。寛解すれば日常生活上はあまり困らない。
医学の世界では、うつ病やパニック障害、自律神経失調症は完治(完全に治った状態)という表現ではなく、寛解という表現を用いることが一般的です。
寛解とは症状が落ち着いて安定した状態で、厳密に言えば治るとは異なるのが現在の医学の考え方です。
一生、今の辛さが続いていくのではないかと不安になりますが、今のままの辛さが永遠に続くという意味ではありません。
寛解すれば辛い症状の多くは改善し、日常生活も問題なくなることがほとんどです。今できないことの多くも出来るようになります。
しかし、その一方で出来ない事が一部維持されることもあります。
私自身もパニック障害になって、現在は寛解している状態で生活をしています。
私の場合は徹夜をする、運動しない生活、不規則な生活リズム、心理ストレスを受けた状態で我慢する、デジタル機器の使い過ぎなど、神経系に負担がかかると簡単に体調不良が引き起こされる状態が現在も続いています。
パニック障害になる前は徹夜、運動をしない生活、長時間のPC作業をしても直ぐに体調不良になるということもありませんでしたが、現在はこれらの無茶は出来ない身体です。
しかし、日常生活に支障があるかと言われれば不摂生をしなければいたって普通の人と何ら変わらない生活をすることが出来ています。
なぜ完治ではなく寛解と表現するのか?
完治と寛解には明確な境界線があるわけではなく、ほとんど完治といっていいほどの寛解も多くあります。
私達がストレスに長期間さらされと、神経ネットワークが切断されたり、神経細胞が死滅するなどの物理的な変化が起こることがわかっています。
切断された神経ネットワークや死滅した神経細胞も二度と元に戻らないというわけではありません。
切断された神経ネットワークを修復する為に、新たにネットワークを接続したり、神経細胞が新たに生まれるなどの再生が起こることもわかっています。
しかし、全く同じ形に再生するというわけではありません。
脳の機能は構造にその機能を依存すると考えられています。
破壊された神経ネットワークを修復する際に構造に変化が起こる形で修復が行われると以前とは同じ機能を果たせなくなる場合があります。
ストレスを長期間受けると発生する2つの脳の変化
神経細胞の死滅
ストレスを受けると副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されますが、これが慢性的に脳に存在していると記憶や学習を司る海馬が萎縮(神経細胞の死滅)が引き起こされることがわかっています。
その結果として、記憶力が低下したり、認知機能が低下するといったことが報告されています。
前頭前野の神経細胞の萎縮
感情を抑制(不安や恐怖、怒りのコントロール)したり、理性を働かせるなどの機能がある前頭前野の神経細胞のネットワークはストレスを受けると神経細胞の機能が低下します。
通常は神経細胞自体の回復力によって時間の経過とともに機能低下しても回復するのですが、ストレスが長期間に及ぶと回復機能は働かなくなり、神経細胞が死滅をはじめ、いずれ画像上で確認できるほど萎縮してしまいます。
前頭前野の神経細胞の萎縮によって、不安、恐怖、怒り、気分の落ち込みといった感情のコントロールが難しくなると、パニック障害やうつ病の症状が出てきます。
寛解はなぜ起こるのか?
寛解が起こるメカニズムは主に2つのことが体の中で起こっていると考えられます。
1つは神経細胞が新たに生まれたり、神経ネットワークが新たに接続されるなど神経細胞の再生・修復によるものです。
傷口が時間経過で治っていくのと同じですが、傷口がふさがるよりも前に何度も傷口を刺激したりすれば傷がなかなか治らないのと同じで、ストレスをかけて神経細胞の修復を邪魔してしまうと適切な修復が行われなくなってしまいます。
もう一つは、生き残って損傷を免れた神経細胞が死滅したり、破壊された神経ネットワークの代わりに働くことで機能を維持しようとします。
例えば、右足首を怪我した際に直ぐに全く立てなくなるということはなく、左足で立ってケンケンで移動することは可能です。
このように全く同じではないけれど、他の損傷を受けてない細胞が損傷を受けた細胞の代わりを一時的に担うというのは人体ではよく見られる現象です。
ストレスを長期間受けたことで神経細胞が死んでしまったり、接続が切断されてしまったとしても、生き残った細胞が機能しなくなった細胞の分までカバーするように働くことで機能をカバーします。
この2つの仕組みによって寛解が起こると考えられます。
生き残った神経細胞が寛解レベルを決めるカギ
うつ病、パニック障害、自律神経失調症など同じ診断名をつけられていても神経の損傷レベルは人によって異なります。
どれほどの神経が破壊されている状態なのか、どれほど多くの神経細胞が生き残っているのかは人によって異なります。
神経ネットワークは情報の集約をする中継地点となるハブ空港のような役割をする神経細胞も存在する為、情報の伝達に重要な神経細胞がダメージを受けている場合と受けていない場合とでは同じ数の神経細胞が損傷を受けたとしても脳の機能へのダメージは全く異なります。
原理的には生き残っている神経細胞が多いほど、破壊された神経細胞分の仕事を他の神経細胞が分担して負担することが出来ますが、生き残っている神経細胞が多くても、重要な役割を果たしている神経細胞が損傷を受けていると寛解の難易度が高まることになります。
昔は脳の神経細胞は再生しないと考えられていましたが、近年では新たに生まれてくることがわかっています。
しかし、新たに生まれる神経細胞の数が多くない為、全体的にみると基本的には神経細胞は徐々に減少していくことが知られています。
神経細胞がより多く生き残り、重要な神経細胞が損傷を受けていないほど完治に近い状態での寛解が可能で、以前とあまり変わらないレベルでの生活が期待できます。
神経細胞が多く生き残っていたり、重要な神経細胞が損傷を受けていない場合の特徴
以下のような場合には神経細胞がより多く生き残っている可能性が高いです。
・心身の変調を感じてからすぐに休養した。
・日によって症状の強さに波があり、すごく良い日がある。
・発症してからあまり年数がたっていない。
・今回が初めての発症で再発していない。
・既にストレスの原因からは離れている。
神経細胞が多く破壊されていたり重要な神経細胞が損傷を受けている場合の特徴
以下のような場合には神経細胞がより多く破壊されてしまっている可能性が高いです。
・心身の変調を感じていてもそのまま無理して生活を継続していた。
・薬を飲んで症状が落ち着いてから、無理をしすぎて再発している。
・発症してから何年も時間が経過しており、再発を繰り返している。
・現在もストレスの原因から離れられていない。
神経細胞のパフォーマンスを高めて寛解レベルを上げる
生き残っている神経細胞の数か少なく、重要な神経細胞も損傷を受けていれば、症状も重たくなりやすく、辛い症状が改善してくるまでの期間が長期的になり易くなります。
神経細胞の再生・神経ネットワークの損傷の修復は遅い場合はあっても極端に早くなるということはなく、傷口の治るまでの期間がある程度時間がかかるのと同じである程度回復速度には限界があります。
そこで重要になるのが、神経細胞一つ一つのパフォーマンスを高めることで神経細胞が働きやすい条件を整えることです。
・脳血流の改善(首肩こりの改善、呼吸法)
・酸素の供給(細胞呼吸の促進)
・睡眠(十分な休養)
・運動(脳血流の改善、エネルギーを生み出すミトコンドリアの増加)
・栄養(神経細胞へのエネルギー供給、神経伝達物質の合成、分泌)
・情報処理の最適化(心理療法などにより無駄なネガティブ思考による脳への負担を軽減する)
など、とても地道ですが一つ一つを丁寧に行っていくことでより、同じ神経細胞の損傷であっても寛解が高い状態での生活が可能になっていきます。
寛解レベルの範囲内で生活していく
神経細胞のパフォーマンスを可能な限り高めた状態が、残された神経細胞で可能な最大の寛解レベルになります。
ほとんど完治に近いという状態が一番理想的ではありますが、現実問題として
神経細胞の数×神経細胞一つ当たりのパフォーマンス
が、実現可能な最大の寛解レベルになります。
神経細胞のパフォーマンスを高めるには最初は鍼灸などで身体的な問題の改善を行う必要がありますが、一度寛解しても食事の管理、運動習慣、睡眠、思考など様々な管理を継続していくことで体調の良い状態が維持できます。
そういった意味で、いくら完治に近い寛解をしたからといっても、以前のように不摂生が出来る体に戻るわけではありません。
特に食事療法に関しては長期間管理を継続していくことで、細胞を構成している分子レベルの物質がより良いものに置き換わるため、地道な食事療法を継続していくことで、寛解レベルは数年単位で向上していきます。
当院での改善をご検討の方は自律神経失調症、適応障害、パニック障害、うつ病をご覧ください。
遠方で来院が難しいけれど、生活習慣や改善について相談したい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。