こんにちは、浜松市はりを刺さない鍼灸師の佐野です。
パニック障害の方がよく処方されるエチゾラム(デパス)は効果を実感しやすい薬ですが、依存になるという情報から不安を持たれている方も多いお薬です。今回はそんなエチゾラム(デパス)について一緒に考えていきたいと思います。ぜひ最後までご一読ください。
※処方薬は医師・薬剤師の指導の下用法用量を守って正しく使用してください。
結論:エチゾラム(デパス)の効き方、目的に合った使い方をしましょう。
エチゾラム(デパス)はベンゾジアゼピン系抗不安薬に属する薬剤です。半減期は6.3時間、最高血中濃度到達時間は3.3時間のお薬です。
抗不安薬として不安を鎮め、筋肉を緩めリラックスしやすくします。また、眠気を誘発させたり、中途覚醒、早朝覚醒を改善する力もある為、睡眠薬としても使われるお薬です。
不安感を鎮める作用が強いので効果を実感しやすいお薬ではありますが、パニック障害の主な原因と考えられているセロトニンの不足を改善する作用は元々ありません。
しかし、不安感、恐怖感、筋肉の緊張、不眠などを一時的にでも改善することでストレス中枢が刺激されて起る脳疲労や神経伝達物質の過剰分泌による枯渇を妨げる作用が期待できるお薬です。(医学的メカニズムを参照)
不安感やそれに伴う不快な身体症状を和らげることでストレス中枢の刺激を抑える目的の薬であることを理解して使っていく必要があります。
エチゾラム(デパス)は扁桃体の興奮を抑える
パニック障害になると、不安や恐怖を感じる扁桃体が過敏に興奮しやすい状態になることがわかっています。(下図中央付近のピンク色の部位が扁桃体です。)
頻繁に不安や恐怖を感じやすくなる脳の状態になっているということです。
本来であればセロトニンによって扁桃体の過剰な興奮が抑えられるため、ちょっとしたことで不安になったり恐怖を感じたりということはありませんが、セロトニンが不足していると、興奮を抑えることが出来なくなり、ちょっとしたことで不安になり易くなったり、自覚できないほどのわずかなストレスでも扁桃体が過剰に興奮してしまうようになります。
もう一つ扁桃体の興奮を鎮める作用がある神経伝達物質がGABAです。
エチゾラム(デパス)はGABAの効果を促進する薬で、ベンゾジアゼピン受容体にくっつくことでGABAの鎮静作用を助けて扁桃体の興奮を鎮める作用があります。
その為、服薬してから比較的短時間で効果を発揮し、不安感が消えやすいという特徴があります。
依存性のリスクが高い薬剤です
患者さんが不安にならないように説明しないことも多いそうなのですが、ある程度長く服用すると依存が形成されやすい薬であるというのは事実です。
ある程度長くというのは、根拠となる研究や専門書などにもよりばらつきがありますが、2週間~1ヶ月ほどの使用で依存が形成されると考えられています。
保険適用の用法・用量を守っていたとしても、依存になるケースも数多いのがエチゾラム(デパス)です。(これを常用量依存といいます。)
だからといって、むやみに恐れる必要はありません。
エチゾラム(デパス)は2週間程度服用すると依存が形成されやすい薬である為、短期集中や頓服として時々使用する分には副作用も少ない良い薬であるというとらえ方もできるのです。
特に軽度のパニック発作が1度出たばかりの方の場合は、不安感が強いことも多いので、セロトニンを増やす作用のあるお薬(SSRI、SNRI)が効果が出てくるまでの2週間のつなぎとして利用するというのが本来の使われ方です。
しかし、2週間程度服用すると依存が形成されて離脱症状が出るようになるので、改善までの期間を長引かせないことが大切になります。
依存が形成されるパターン
当院に来院された段階で既に依存が形成されている方の場合は、確かに改善が難しい症例が多いです。
なぜなら、パニック障害の改善ではなく依存症の改善が必要になり、薬物依存は精神科医の中でもさらに依存症専門医にしか行うことが出来ない難しい領域だからです。
依存が形成されてしまう方は、
エチゾラム(デパス)を飲んで同じ生活を継続している
という共通点があります。
これを知っておくことで、依存を形成しないようにすることが可能になります。
心療内科や精神科は患者さんが溢れかえって初診予約が3ヶ月待ちになっていたり、という事情もあり、内科医などの専門外の医師が不安症状やパニック発作の患者さんには苦痛を取り除くためにエチゾラム(デパス)を処方して服薬を始めることが多いです。
エチゾラムを飲むことで良く眠ることが出来て脳疲労が回復し、不安感やパニック発作からくる身体ストレスと元々セロトニンが低下した要因が取り除かれていれば、時間が経過すればセロトニン量が増えてくるので、エチゾラムを飲む必要がなくなり自然に良くなるという経過もあり得ます。
しかし、第一選択薬としてはパキシルなどのSSRI系のセロトニンを増やす薬が効果を示し始めるまでの2週間の症状緩和の使用だけに留めることが推奨されています。
SSRI系のお薬は一度服薬を始めると、急にやめてはいけないお薬の為あまり使いたくないといわれる方が多いです。
しかも、エチゾラム(デパス)を上手にタイミングよく使えてしまうと薬をある程度決まったタイミングで飲めば以前通りの日常生活を過ごせてしまうので、気が付くと長期間服薬しているという感じで、依存を形成しやすい条件が揃ってきてしまいます。
SSRIを使わない場合にはエチゾラム(デパス)の作用で不安がコントロールできている2週間の間に、脳疲労を回復させたり、セロトニン量を元に戻すような生活習慣、運動習慣や心理療法を受けて生活をシフトすることが大切なのですが、十分な指導がされていないことで、「これでいいのかなぁ」と思いながら依存が形成されるまでの貴重な期間を無駄に消費してしまうのです。
また、急にパニック障害になると、自分が精神疾患に罹ったことを受け入れられない方や周囲の方には知られたくないという、恥ずかしいという感情や周囲の人から変な目で見られるのではないか?と感じてしまう人も多いです。
その結果、服薬をしていれば普通に生活しているように見えますから、バレずに済むというメリットを手放せず、以前の自分と同じ生活様式を継続しているうちに、ある程度長く服用することで依存が形成される期間に到達してしまうのです。
家族が処方してもらっていたエチゾラム(デパス)をこっそり飲んで不安感をやり過ごしていたという方までいます。
エチゾラム(デパス)を使う場合には、短期決戦が大切です。
厳密に用法用量を守りましょう
エチゾラム(デパス)は常用量依存を起こす薬ですから、用法用量を守っていても長期間になれば依存形成が発生してくる薬です。
その為、最低でも用法用量を守っておかないと依存形成が想定よりも早くなってしまう可能性もあります。
良くある用法の間違いが「不安になりそうだから服薬する」という使い方です。
医師は不安になりそうだったら飲むようにとは指示していないハズです。
不安になってから服薬する薬です。
不安になったら困るから、出かける前に飲んでおこう、会議の前に飲んでおこう、夕方○時ぐらいから不安になることが多いからから飲んでおこう。
といった具合に、「不安になって辛い時に飲んでください」と指示が、いつのまにか「不安になりそうな時に飲んでください」と用法の指示を間違って解釈してしまっていることが多いです。
不安になることと不安になりそうなことは似てはいますが全く違います。
エチゾラム(デパス)を抗不安薬として使うときは、今、不安になっているという、現在進行形になってから適正用量だけ使用しましょう。
睡眠薬として夜飲むように指示されている場合には、その指示に従うことも大切ですが睡眠に関しては依存形成をしないタイプの睡眠薬も開発されています。
依存を形成する前にすること
エチゾラム(デパス)を使う場合には、短期決戦で改善してしまう必要があります。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などのセロトニンを増やす薬を併用しながら使っていくか、当院のように鍼灸や整体と生活習慣、心理療法など多角的視点からセロトニン量を増やしていくのかのどれかしか方法はありません。
SSRIを使っていく場合の原理と注意点
現代医学ではセロトニンの合成・分泌を促進するような薬は存在していません。しかし、シナプス間隙のセロトニン量が戻るようにしていくSSRIという薬が使われます。
セロトニンは分泌された後セロトニントランスポーターというタンパク質で出来たトンネルを通って神経に再度回収されてしまいます。
セロトニン不足というのは主にシナプス間隙のセロトニンが不足した状態ですから、そのトンネルに蓋をしてしまえば分泌されたセロトニンはシナプス間隙内に残存し、徐々にシナプス間隙にセロトニンが増えていくという原理です。
問題なのは、狙ったシナプス間隙(パニック障害では扁桃体の神経細胞のシナプス)以外のセロトニントランスポーターにも蓋をしてしまう為、脳全体や体全体で見た時に、セロトニンが過剰になって副作用を起こすことがあります。
また、そもそもセロトニンが不足した原因がセロトニンの合成・分泌不足である場合がほとんどの為、薬をやめてしまうと原理的に元に戻るということです。
セロトニンの合成・分泌 < セロトニンの消費量
この関係性が変わらない限り、薬を飲み続ける必要があります。
鍼灸や整体で改善していく原理と注意点
鍼灸や整体でパニック障害を扱っているところであれば、筋肉の緊張を緩めてリラックスさせて眠りやすくする、脳への血液量を増やすことでセロトニンの合成・分泌を促します。
セロトニンの合成・分泌 > セロトニンの消費量
を狙った方法ですが、身体ストレス以外のストレスがかかっていることが原因でセロトニンの消費量が高い場合には、効果が得られにくいという欠点があります。
また、施術自体の刺激が強すぎたりするとそれが身体ストレスとなって一時的に悪化する場合があり、施術後の経過を聞きながら刺激量を調節していくことが大切になります。
多角的視点から改善していく原理と注意点
セロトニンが不足するパターンは大きく以下の4パターンです。
1.セロトニンの合成・分泌が落ちていてセロトニンが不足している。
2.セロトニンの消費量が多すぎてセロトニンが不足している。
3.1と2の両方が複雑に合わさってセロトニンが不足している。
4.セロトニントランスポーターの過活動によるセロトニン不足。(オーバートレーニング症候群)
しかし、さらに細かく見ていくと1.の合成分泌も栄養学的な問題から合成・分泌が落ちている場合では、鍼灸や整体で改善可能な脳血流の問題ではなく、栄養療法の方がより効果的になります。
仕事や勉強の睡眠不足などにより脳疲労が発生してセロトニン神経がセロトニンを合成・分泌ができなくなっている場合には生活習慣を見直して睡眠時間を確保していくことの方が効果的です。
このように大きくは4つのパターンがありますが、効果的なアプローチとなるとさらに細かく分析して、アプローチする必要が出てきます。
依存形成がされる前であればエチゾラム(デパス)を使いながら、セロトニン量を増やしていく生活習慣、心理、環境の改善を行うという自然な方法も可能です。
まとめ
・エチゾラム(デパス)はGABAと同じ働きをする。
・2週間程度使っていると依存が形成されていくので注意が必要。
・適切な期間内の使用であればそれほど危険な薬ではない。
・セロトニンの量を正常に戻すことが大切で、エチゾラム(デパス)で調子が良くなってもセロトニン量は回復していない。
・多角的な視点からセロトニンが不足の原因を取り除いていくことが大切で、投薬、鍼灸整体など特定の方法だけにこだわらないことも大切。
当院での改善をご検討の方はパニック障害(不安障害)をご覧ください。