
こんにちは、浜松市のはりを刺さない鍼灸師の佐野です。
近年、起立性調節障害(OD)の認知が広まったことで、救われるお子さんが増えた一方、ある「弊害」も生まれています。
それは、本来は別の疾患(適応障害など)であるにもかかわらず、すべて起立性調節障害という枠組みで診断・処理されてしまうケースが増えてしかもそのまま放置されていることです。
今回は、なぜそのような「診断のすり替え」が起きるのか、その背景とリスクについて一緒に考えていきたいと思います。
結論:その起立性調節障害、実は「適応障害」の代わりかもしれません
朝に頭痛や腹痛を訴えて学校へ行けなくなる。いわゆる不登校のお子さんには、大きく分けて3つのパターンがあります。
1.体調不良を伴わない不登校(心が折れる前に、休むことで自分を守っている)
2.適応障害からくる不登校(環境に馴染めず、我慢の限界で体調を崩しているが、典型的な起立性調節障害とは症状が微妙に異なる)
3.純粋な起立性調節障害(環境に関係なく、自律神経や血圧調節の機能に問題があり、典型的な起立性調節障害の症状が出る)
現在、日本では「適応障害」と呼ぶべき状態が、便宜上「起立性調節障害」と診断されるケースが多々あります。臨床現場では主に以下の3つに分類されます。
タイプA: 純粋に血圧調節不全が原因の医学的にも正しい起立性調節障害
タイプB: 本来は適応障害だが、便宜上起立性調節障害と診断されているもの
タイプC: 適応障害で動けなくなり、運動不足から起立性調節障害を併発したもの
本来、不登校は大人であれば適応障害(特定のストレスにさらされると悪化する)の枠組みとして考えられる疾患です。
しかし、そこであえて起立性調節障害と診断されるにはいくつかの理由があります。
それでも、臨床で診させて頂いていると、起立性調節障害と目的をもって病名をすり替えたはずなのに、デメリットの方が大きくなってになってしまっているケースもあります。
なぜ医師はあえて「起立性調節障害」と診断するのか?
本来、特定のストレスで悪化する不登校は「適応障害」の枠組みです。しかし、あえて「起立性調節障害」という診断名が選ばれるのには、戦略的な理由があります。
1.精神疾患というレッテル回避と二次障害の予防
発症直後で混乱している急性期のお子さんや親御さんに精神疾患の診断名をつげることは、さらに追加で強いストレスを与え、重度の精神疾患のストレス原因になる(二次障害)リスクを高める懸念があります。
また、周囲の目も起立性調節障害であれば「体調不良だから仕方ないね」となりますが、精神疾患だと周囲の人から「気持ちの問題や精神的におかしい」など間違ったレッテルを避けることが出来ます。
本人や家族も、体の疾患だから仕方がないと納得できますが、適応障害の場合は、学校が悪いのではないか?育て方が悪かったのではないか?子供が甘えているだけではないか?といった悪者を探し出すような心理も働きやすくなります。
それ以外にも、小児科が専門外の精神疾患を病名としてつけられないというシステム的な問題もあります。
2.検査が証拠能力として強くなる
起立性調節障害であれば、血圧の異常が数値データの客観的な証拠として示すことが出来ますが、(本来の基準とは別に)臨床現場では、明らかな数値異常がなくても前述の理由から『状況証拠』で起立性調節障害と診断されるケースが多々あります。
適応障害であってもストレスをうけて自律神経が乱れている状態で新起立試験を行えば、血圧異常は出ることも多いので、客観的なデータとしての証拠が出しやすくなります。
しかし、適応障害としてしまうと、客観的なデータを示すことが出来ない為、証拠がどうしても弱くなってしまい周囲を納得させる力が弱くなります。
起立性調節障害と診断するメリットが4カ月目以降デメリットになる
初期段階の急性期では、前述したとおり適応障害であってもあえて起立性調節障害という病名で「正当に休むための盾」を作ってあげることはメリットとして絶大です。
しかし、混乱が落ち着く4ヶ月目以降、この病名が「問題解決を阻む壁」になることがあります。
- 心理的回避への依存: 「体の病気だから心理的には向き合わなくていい」という状態に親子で依存してしまう。
的外れな治療の継続: 適応障害(環境要因)なのに、昇圧剤や水分摂取、身体へのアプローチばかりを続け、貴重な時間とお金を浪費してしまう。
適応障害の場合、最も必要なのは「環境調整」です。
「子供が学校に適応できていない事実」「親や教師がそれを手助けできなかったかもしれない現実」を直視するのは残酷で苦しいプロセスです。
しかし、ここを避けて「体の病気のせい」にし続けると、卒業や進学といった強制的な環境変化が来るまで、お子さんは停滞を余儀なくされます。
適応障害なのか?起立性調節障害なのか?
かなり似通った症状を出すので、厳密に適応障害と起立性調節障害を分けることは難しいですし、併発することも多いので、3ヵ月を過ぎた時点で、適応障害的な要素がないか(併発してきていないか)改めて振り返ってみることが大切です。
注意して頂きたいのは適応障害もれっきとした病気だということです。怠けや甘え、心の弱さではありません。
もし、お子さんに以下のような特徴があれば、環境調整を優先すべきかもしれません。
・平日や学校がある日に体調不良が集中する。
・学校がある時間帯だけ体調不良が出て放課後の時間は元気。
・楽しい行事や楽しいことをしている時は元気。
・学校がない日は基本的に体調不良が出てこない。
・夕方以外の時間に運動ができる日がある。
・立ち眩み・めまい・動悸など血圧症状がないもしくは非常に軽度。
・体調が良くなった時間からでも学校へ行こうとしない。
・遅刻で学校へ行くことを嫌がる。
起立性調節障害という病名への依存がもたらす最悪の結果
メンタル的な混乱が治まってくる4カ月以降は、親御さんやお子さん自身がこの病名の持つ心理的回避力に依存し始めてしまう時期です。
「起立性調節障害」だからという理由があれば、起立性調節障害に当てはまらないような症状や挙動があっても、免除されたり配慮してもらえる、心理的問題と向き合わないでいられるというメリットが継続します。
このメリットを手放せなくなってしまい、「起立性調節障害」という病名を手放せなくなって、他の疾患の可能性があっても拒否して、的確な治療を避けるようになるのです。
環境からの影響が強い適応障害であれば、環境調整に取り組むことで、数ヵ月で回復してくることが期待できます。
しかし、その為にはストレス原因が何かを特定することと、そのストレス原因(環境)にお子さんが適応できないという事実を受け入れるというプロセスが必要になります。
適応障害なら、ストレッサーから離して休養させ、適応できる環境に徐々に慣れさせていくという治療プロセスを踏んだほうが確実に早く治ります。
本来は、誰が原因で適応障害になったのかの悪者探しや、子供自身の心の弱さとしてとらえるといった間違った認識は元々必要ないのですが、なんとなくそんな気がしてしまって誰も認めたくない状況が生まれてしまいます。
病院側もわざわざ安定して通院してくる患者さんの来院拒否につながるようなリスクを避けたいため、起立性調節障害ではないと気が付いていたとしても、あえて診断名を変えたり、他の可能性について言わないことがほとんどです。
学校の時だけ症状が出るなど、起立性調節障害では説明できないことが多くても、お子さん本人、親御さん、医師、教師、カウンセラーなど、波風立てたくないから、支援者を含めて全員が黙っているという状況が形成されてしまうのです。
適応障害を起立性調節障害として放置するリスク
大人のデータですが、2012年に労災認定を受けた方対象の調査で、適応障害後に平均3.9年以内にうつ病に診断名が切り替わった方は37.8%です。
これは治療を受けていた方でも、おおよそ4割の方がその後、うつ病に移行してしまったことを意味します。
適応障害の治療を行っている人のデータですが、適応障害を放置した場合はうつ病のリスクはもっと高くなることは容易に想像できます。
また、大人がうつ病になるのとの大きな違いは、脳が完成していないお子さんがうつ病になってしまった場合は、うつ病の状態が脳の成長に悪影響を与えてしまう点です。
統計的にも、うつ病が若年期に発症した方ほど、再発を繰り返して将来、重症うつ病へ移行して一生苦しむリスクが高いことがわかっています。
起立性調節障害が乱発されることで病名のインフレ化が起こる
適応障害にあたる子供にまで起立性調節障害と診断を利用し続ける、もう一つ大きなデメリットが起立性調節障害という病名のインフレ化です。
既に現場レベルでは起こっていることですが、以前ほど「起立性調節障害」だからということを伝えても、手厚いサポートが受けられにくくなってきています。
5年ぐらい前までは、学校でも「午前中は調子が悪くて仕方がない」ということが理解されていましたが、クラスに起立性調節障害の子が数人いるのが当たり前になってくると、教員側も病気としてなのか、不登校を認められないだけなのかよくわからない状況に立たされます。
重度の起立性調節障害の子供は、午前中だけでなく、1日中ほとんど動くことが出来ない子もいます。軽度であっても、階段を上るだけで気を失ったり、息切れと強い動悸に襲われます。
適応障害のようにストレス原因から離れていれば、生活上はある程度好きなこともしていられるわけではないのです。(適応障害が楽だという話ではありません。病気としての特性の違いが、医学を知らない一般の人に誤解を積み重ねていくのです。)
適応障害の症状なのに、起立性調節障害という診断名を使い続けると、起立性調節障害という疾患自体の社会の認識がずれてきてしまいます。
お子さん本人も、数ヵ月で改善可能な適応障害であるにもかかわらず、何年も苦しむ羽目になってしまい、更には出席日数や勉強の遅れが進んで、将来の選択肢が狭められていってしまいます。
最終的にお子さんが割を食う構造になっています。
まとめ
本来であれば、適応障害と診断する方が医学的に正しい場合でも、医師の治療上の戦略的理由から起立性調節障害と診断されるケースが多々あります。
しかし、休みの日は元気になる、楽しいことはできるなど適応障害に近い症状の出方をしている場合は、環境調整を真剣に考えてみてください。
この記事を読んで、胸が苦しくなった方もいるかもしれません。
都合よく元気になるからちょっと変だとは思っていたけれど考えないようにしていた親御さん、精神疾患ではなくてよかった(私たちの育て方に問題があったわけじゃない)と安堵していた方には辛い内容だったかもしれません。
辛く感じたのは、あなたがそれだけお子さんの将来を真剣に考えている証拠でもあります。
当院では、体調を整えるだけでなく、その『環境調整』をどう進めていくかを一緒に考えます。
当院での改善をご希望の方は不登校をご覧ください。
遠方で通院が難しいが、相談されたい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。


