パニック障害・自律神経失調症が治った後も、動悸が時々出るのはなぜ?(後遺症)

結論:自律神経系や心筋に物理的細胞ダメージが残った場合に、回復後も時々動悸が出る状態が残存してしまう

パニック障害や自律神経失調症が改善した後でも、時々動悸が出るという状態が何年も残る場合があります。

私もパニック障害から回復してから12年以上経過しますが、心電図で問題は指摘されませんが、動悸が全くしなくなったわけではありません。

軽めの動悸が、疲れやストレスがかかっているタイミング、強い運動強度をかけて止まった瞬間、前触れなく短時間だけといった動悸が現在も残存しています。

当院へ来院された方も、卒業されていく方には、全く動悸症状が消えてしまう人もいれば、生活に支障が出ない程度の軽い動悸が時々出る程度で安定しているかのどちらかの状態で卒業されていきます。

今回は、完全に動悸が消える方と、多少の動悸が残存してしまう方の違いについて一緒に考えていきたいと思います。

パニック障害や自律神経失調症の動悸は交感神経過剰によっておこる

パニック障害や自律神経失調症は、自律神経が乱れて交感神経(緊張・興奮)・副交感神経(休息・リラックス)の神経のバランスが崩れることにより発生すると考えられています。

多くは心理・物理・社会・化学ストレスが長期間加わり、ストレス反応が長期にわたって発生し続けたことで、交感神経優位を抑制する為のHPA軸の機能が低下し、交感神経の過剰興奮を抑えることができなくなって引き起こされます。

治療介入により、交感神経の過剰興奮を抑え、HPA軸が再び機能するようになってくることでパニック障害や自律神経失調症は改善していきます。

当院でも交感神経の過剰が無くなり、HPA軸が再び機能するようになったと判断できた時点で卒業して頂いています。

動悸が残る人と残らない人が発生する理由

心理・物理・社会・化学ストレスが長期間加わると体内ではコルチゾールやアドレナリンといったホルモンが過剰に分泌される状態が続きます。

これにより交感神経の過剰興奮状態が、継続してパニック障害や自律神経失調症を引き起こします。

ストレス反応が起こると、同時に免疫系の反応として炎症性サイトカイン(体内の細胞が分泌する小さなタンパク質で、細胞間の情報伝達を担う重要な物質です。)の一種であるIL-6(インターロイキン6)の分泌が増加します。

IL-6は通常、感染や外傷時の防御反応として働くのですが、ストレス環境下では過剰に分泌され、特に脳や心臓で増加することがわかっています。

つまり、脳と心臓で特に強い炎症を引き起こすと考えられるのです。

脳でIL-6による炎症が引き起こすこと

脳は神経細胞の集合体で、自律神経の調節方針の決定を行う臓器でもあります。

炎症が持続すると神経細胞の機能低下や神経細胞そのものやシナプス(神経細胞同士の接合部)に異常が生じます。

軽度の場合は神経細胞の機能低下のみで物理的な損傷を受けない為、回復した際に機能が完全に元通りに戻ります。

しかし、炎症により、物理的な損傷を受けた場合には神経細胞が再生するまで元の状態になるには、長期間の時間が必要になります。

一度、自律神経系の疾患を発症してしまうと、なかなか完全に元通りにならないのは神経細胞やシナプスに物理的な損傷を受けてしまった可能性が高いのです。

心臓でIL-6による炎症が引き起こすこと

心臓はほとんど筋肉でできている臓器で、心筋(心臓を構成している筋肉)は基本的にほとんど再生しない組織と考えられています。

ほとんど再生しない組織でIL-6が炎症を引き起こすと細胞レベルでの損傷を引き起こし、細胞死や機能低下を引き起こします。

また、ストレス状態で、交感神経が高まっている時は心拍数や心拍出量といった心臓の活動が増加しますが、心臓が動く為に酸素や栄養を受け取る冠動脈(心臓そのものが活動する為の血流を送る動脈)が収縮しやすく(血流が悪く)なります。

ストレス状態は心筋へ炎症によるダメージだけではなく、必要とする酸素・栄養の増加に反して送られる血液量が低下し、供給不足状態に陥る為、心筋細胞のダメージが加速されます。

つまり、炎症による心筋細胞へのダメージと交感神経の過剰による血液の供給不足による心筋へのダメージが心臓に生じることになり、細胞レベルのダメージとして残存する為、何年経過しても時々発生する動悸となる可能性があるのです。

ストレスと心臓病の因果関係は科学的に根拠がある

ストレスが心臓病の悪化、発症と因果関係があることは様々な大規模研究からも明らかにされています。

例えば、INTERHEART研究では、社会的ストレスと抑うつが心筋梗塞リスクを1.45倍、1.55倍に増加させることが示されています。(参考

また、日本人を対象としたコホート研究(特定の集団を長期間にわたって追跡調査する疫学研究)では、高度な精神的ストレスを抱える女性の心血管イベント発症リスクが2.24倍に上昇すると報告されています。(参考

ストレスから心臓病と診断されるレベルの心臓の異常の前には、細胞レベルでの心筋のダメージや心臓に血液を送る冠動脈が炎症を起こすなど、小さなダメージがある程度蓄積されていくことで初めて、検査で検知することができるようになっていきます。

パニック障害や自律神経失調症を発症すること自体が、ストレス反応が長期間継続してきた証拠でもあるため、何らかの細胞レベルでの物理的なダメージは起きており、それが動悸という残存症状として感じられる可能性があります。

現時点では心筋の細胞レベルでのダメージを回復させるような方法は存在しないため、まずは心筋細胞にダメージが出るほどストレスを長期間受け続けないという予防が大切です。

まとめ

長期間のストレスにより、交感神経が過剰に働く状態が続くと、体内ではコルチゾールやアドレナリンのほか、炎症性サイトカインIL-6が過剰に分泌され、脳や心臓に炎症を引き起こします。

脳では、神経細胞やシナプスに損傷が生じ、回復に時間がかかるため、治療後も時折動悸が現れる可能性があります。

一方、心筋は再生能力が極めて低く、IL-6による炎症とストレス下での冠動脈収縮によって、細胞レベルのダメージが残りやすくなります。

結果、パニック障害や自律神経失調症が改善しても、自律神経系や心筋に細胞死などの物理的ダメージを受けていた場合には、回復後も時々動悸が出るという状態が何年でも残存してしまうのです。

心身堂鍼灸院院長
この記事を書いた人
鍼灸師 佐野 佑介

静岡県浜松市中央区和地山で自律神経・メンタル専門のはりを刺さない心身堂鍼灸院を開業。
自身も26歳の時にパニック障害から自律神経症状に苦しんだ経験を持つ。
パニック障害、広場恐怖症、うつ病などの精神疾患領域と起立性調節障害、機能性ディスペプシア、眩暈などの自律神経疾患の専門の鍼灸師。
国家資格 はり師(148056号)・きゅう師(147820号)
医薬品登録販売者試験 合格

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