眠れない!睡眠学が明らかにした正しい不眠症の治し方
結論:睡眠薬の使用は特殊な不眠症や一時的な対症療法のみで、根本改善には環境整備(生活習慣)と心理療法が重要
不眠症に悩み始めると多くの方が病院へ行くべきか、薬を使った方が良いのか?と悩まれます。
うつ病など他の疾患が原因で発生している睡眠障害を除けば、睡眠薬を使用して眠っても対症療法にしかなりません。
薬を使って脳を休ませるという目的で睡眠薬を利用することに一定の意味はありますが、根本的な不眠症の改善は睡眠についての正しい知識を身につけ、環境整備・生活習慣と心理療法を行っていくことが基本です。
薬による治療で治るというものではないという点には注意が必要です。
不眠症についての基礎知識
眠れないからすぐに不眠症であるとは言えません。翌日大切なプレゼンがある、楽しい旅行があって興奮して眠れないというのはいたって普通の反応です。
まずは不眠症について知ることから始めていきましょう。
本当に治療が必要なのか?
不眠症はまず、自覚的に満足する睡眠がとれているのかどうかと、必要な睡眠がとれているのか?いないのか?を分けて考える必要があります。
睡眠外来などでは睡眠の状態を調べるために、不眠症を訴えられる患者さんの脳波を計測する入院検査を行う場合があります。
脳波を見ても眠れていないことが確認できる方もいるのですが、自覚的には眠れなかったと訴えられる人の中には、脳波上はしっかり眠っている方もいます。
眠っている人を寝かせる必要性はない為、眠っている感覚がないということと、眠れていないというのは分けて考える必要があります。
薬では自然な睡眠は再現できない
睡眠薬で眠った場合の脳波と自然に眠った時の脳波は異なる脳波になり、薬を使って眠っている睡眠は自然な睡眠と質が異なります。
現在はオレキシン受容体拮抗薬といって、覚醒を安定化させる神経伝達物質であるオレキシンの作用を邪魔する薬が登場しています。
原理的には従来の睡眠薬に比べて自然により近い睡眠になると考えられていますが、自然な睡眠を完全に再現できているわけではありません。
眠ることに執着することで不眠症になっていく
今夜は眠れるのだろうか?今夜こそ眠りたい。今夜も眠れなかったらどうしよう…。長い夜が怖い。
不眠症はこのような眠ることへの執着が強くなればなるほど、悪化していきます。
理由は簡単で、眠らなくてはいけないと心理的に自分を追い詰めることで、交感神経を刺激して緊張して眠れなくなってしまうからです。
何日も眠れないことで、脳の判断力も低下し、執着していくことがいけないとわかっていながらも、眠ることに執着していくという悪循環から抜けられなくなっていきます。
睡眠環境を整備しよう
眠る環境に極端にこだわる必要はありませんが、音や光は睡眠を邪魔するので以下のようなポイントを押さえながら睡眠環境を整えていきましょう。
部屋は暗く
私達は昼行性の動物なので、脳は目から入ってくる光の量によって覚醒や睡眠のリズムをとっています。
眠る部屋が明るいと睡眠を妨げてしまいますので、寝室はなるべく暗くすることが大切です。
音がないようにしましょう
なるべく静かな環境で眠る方が睡眠の質が良くなることがわかっています。
無音だと眠れないという方はリラックスする音楽をかけて、タイマーをセットして入眠後は音が消えるようにしてください。
室温は低めに
睡眠中は体温が低下します。
体温を放熱する必要がある為、室温は18度ぐらいと若干低めの温度が良いとされています。
生活習慣を見直そう
睡眠は体内時計に従って行われるため、眠るときだけ気を付けても十分な効果を得られないことが少なくありません。
毎日の生活習慣を整える事がとても重要になります。
朝起きたら朝日を目から入れましょう
睡眠に関わる脳にある中枢時計は朝起きてから目に光が入ることでリセットされます。
朝起きたら太陽の光を浴びることで体内時計が整いやすくなります。
運動して身体的な疲労をしっかりしましょう
たくさん運動すればそれだけ回復するために睡眠時間は延長されますし、運動をほとんどしなければそれだけ睡眠時間は短くなります。
運動習慣は睡眠を促すうえではとても重要な要素です。睡眠の悩みを解消するには昼間にしっかりと運動することが大切です。
また、運動にはストレス解消効果があります。
不眠の入り口はストレスから眠れなくなる方も多いですので、カウンセリングを受けるなども有効ですが、日ごろから散歩などの軽い運動習慣を持つことで運動によるストレス解消を行っていきましょう。
1日を通してデジタル機器の使用時間を制限する
眠る前にスマホやタブレットの使用を控える必要があるのは多くの方がご存じだと思いますので、夜になったらデジタル機器の使用は行わないのが基本です。
デジタル機器は報酬系を刺激してしまう為、昼間の時間帯であっても長時間のスマホやゲームの使用は3日程度脳の興奮状態を維持することがわかっています。
夜は使わないというのは当然ですが、昼間もスマホやゲームなどをやりすぎないように1日長くても2時間以内にデジタル機器の使用時間は制限しましょう。
昼寝は午後三時より前に
睡眠不足になって眠たい時は昼寝で補うことも大切です。
しかし、午後3時以降も寝てしまうと夜の睡眠に悪影響が出てしまうので、遅くても3時までには起きるようにして下さい。
30分以上昼寝をすると深い睡眠に入ってしまう為、起きた時にだるい、気持ちが悪い、ぼーっとしてしまうなどの症状が出てしまいます。
最適な昼寝の時間は30分以内にするのがポイントです。
寝酒は辞めましょう
ストレスなどがかかって寝付けない時にお酒を飲むと入眠しやすくなるので、寝酒をしている方がいますが、お酒は睡眠の質を低下させてしまうので、寝酒としての飲酒はやめましょう。
また、寝酒が習慣化されすぎているとお酒を飲まないと眠ることが出来ないアルコール依存症になってしまっている場合もあります。
そうなってくると、不眠症の治療とアルコール依存症の治療の両方が必要になってきます。
アルコール依存症は薬物の依存と基本的には同じなため、依存症の専門医でなければ診察も適切な対応も難しくなってしまいます。
寝ずらいなと思ったら、まずは運動してしっかり体を昼間に疲れさせる。それでもだめであればお酒を飲むよりも、睡眠薬を検討しましょう。
不眠解消目的での飲酒は絶対にやめてください。
不眠症を改善する認知行動療法(心理療法)
不眠症には認知行動療法が有効であることがわかっています。
眠れなくても横になっていればいいといわれていた時代もありますが、現在はその方法は否定されています。
正しい認知行動療法を行っていきましょう。
10分眠れなければベッドから出よう
人間の脳はどの場所で何を行うのか、場所と活動内容をセットで記憶しています。
図書館では勉強しやすくても自宅やリビングでは勉強を集中できないという経験はある人も多いのではないでしょうか?
普段、リラックスする空間にしているところは、その空間に入ると無意識にリラックスモードに体が入るようになっているため、そこで勉強しようとしてもリラックスしてしまって集中できません。
睡眠も同じでベッドで読書をしたり、スマホをいじっていたり、TVを見ていたりなど、寝る以外のことをしていると脳がベッドに入っても寝るモードに入らなくなってしまいます。
同じように、寝床に入って眠れない状態のままベッドの上でごろごろしていると寝床が寝るところではないと脳が錯覚して覚えてしまうのでベッドで寝ずらくなってしまいます。
眠くなるまでは起きていて、眠くなってからベッドに入り10分以上しても眠れそうになければ一度ベッドから出ましょう。
これは不眠症に対する認知行動療法でかなり強力な睡眠改善法です。
夜中に目覚めても時計を見ない
夜中に目覚めるとつい今何時なんだろう?と時計を確認してしまう方も多いと思いますが、睡眠で悩んでいる方は夜中に目覚めても時計を見るのをやめましょう。
時計を見た時にスマホの画面などで時間を確認すると目に光が入ってしまうので脳が覚醒してしまいます。
また、まだ何時だから、早く寝なくてはいけないと自分にプレッシャーをかけてしまって余計に眠りずらくなる方も多いです。
そして、起きるたびに時間を確認していると、自分の睡眠時間が何時間だったのかを把握してしまい○時間しか眠ることが出来なかった~と、心理的ストレスを自分自身に与えてしまいます。
何時間寝たのかわからなければ必要以上の心理ストレスを回避できます。
最近はスマートウォッチなどで睡眠を計測できますが、専門家などに見てもらう時用の記録程度で、自分で管理しないことが大切です。
身体の不調があれば鍼灸・整体を組み合わせることも検討しましょう
体のコリが強い、お腹の調子が悪いなどの身体の不調があると、生物的ストレスを受けることになる為、リラックスしにくい状態になります。
身体がこわばっていると眠れない、寝付けない、途中で起きてしまうという症状を起こしやすくなります。
鍼灸や整体などで全身の筋肉をリラックスさせたり、内臓の調子を整えたりする施術を受けると眠りやすくなります。