
こんにちは、心身堂鍼灸院の佐野です。
今回は慢性胃炎・萎縮性胃炎と機能性ディスペプシアとの関連性について考えてみたいと思います。
機能性ディスペプシアと診断されたけれど、過去に慢性胃炎・萎縮性胃炎の診断を受けたことがある方には、知っておいて頂きたい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
結論:機能性ディスペプシアの原因が慢性胃炎・萎縮性胃炎の場合には難治性になる
機能性ディスペプシアは、原則として他の原因となる疾患が見当たらないけれど、胃もたれなどの胃の不快症状や食欲不振、満腹感、げっぷ、胸やけ、吐き気などが継続する疾患です。
機能性ディスペプシアは感染性胃腸炎(食中毒や食あたり)などの後から、深い症状が出る方が多いです。
一方、萎縮性胃炎とはピロリ菌など(ピロリ菌の近縁細菌)の感染により、胃の粘膜に炎症が長期間続いて慢性胃炎が悪化した状態です。
慢性胃炎を繰り返していると胃の粘膜が薄くなり、胃液や胃酸を分泌する組織(固有腺)が減少・消失したり、胃の繊維化が起こります。この状態を萎縮性胃炎といいます。
医師によっては萎縮性胃炎でも慢性胃炎と診断していることもありますが、萎縮性胃炎は胃炎が治ったとしても胃液や胃酸を分泌する組織、胃の繊維化から元の組織への再生されない不可逆変化のため、胃の機能(消化や胃壁の保護機能)が低下します。
胃炎が治まっているため、胃の不調があったとしても、他の原因となる疾患が見当たらない状態になります。
つまり、機能性ディスペプシアの条件を満たしてしまうのです。
萎縮性胃炎の治療は進行を止めること
萎縮性胃炎を放置するとがん化のリスクが高まることから、ピロリ菌などの原因菌を抗生剤で除菌することで治療を行います。
除菌に成功すれば胃炎は徐々に沈静化に向かいます。
しかし、萎縮性胃炎により、胃粘膜を守るために分泌される胃液や消化に必要な胃酸の分泌する組織は既に破壊されており、現在の医学では破壊されてしまった胃液や胃酸の分泌腺を再生させる方法や繊維化した胃の組織を正常な状態に戻す方法がありません。
除菌が成功して胃炎が治まっても胃の不快感が残る可能性がある
除菌が成功すれば胃炎自体は終息へと向かいます。
しかし、破壊された分泌腺や繊維化してしまった胃は正常な組織に再生されないため、胃を胃酸から守る力と胃で消化する力、胃の動きが繊維化により邪魔される状態となり、胃の不調を引き起こしやすくなります。
胃炎が不快感の原因であれb、胃炎の沈静化とともに症状は改善していきます。
しかし、完全に胃炎が治まっても、胃液の分泌不足によって胃が胃酸によりダメージを受けやすくなったり、胃酸の不足による消化力の低下から胃もたれ症状が出やすい、胃の繊維化によって胃の動きが悪いなどの状態が持続することがあります。
胃炎は除菌により治療できますが、組織の変化を伴う胃の機能低下は一生残り続けるのです。
原理的に機能性ディスペプシアの患者さんの中には一定数存在する
慢性胃炎・萎縮性胃炎を治療して胃カメラでは胃炎があった形跡程度で、正常に戻っているのに、不調が残っている場合には機能性ディスペプシアと診断される確率が高まります。
本来であれば、萎縮性胃炎の後遺症による胃の不快感と機能性ディスペプシアは分類上は区別が必要な状態です。
機能性ディスペプシアは胃そのものは正常であることが前提の疾患です。(組織の変化や損傷がない)
分泌や胃の動きの制御が何らかの理由により、過剰だったり不足だったりといった状態になってしまうことで起こる疾患だと考えます。
萎縮性胃炎後の機能低下に鍼灸は有効か?
経験上、萎縮性胃炎の後遺症の方でも鍼を行うことである程度の不快感は改善が可能なことが多いです。
しかし、萎縮性胃炎の後遺症にも軽重があり、どこまで正常な状態に回復できるのかは正常な組織がどれだけ残っているのかにかかっています。
全体の10%が壊れてしまった方と、全体の60%が壊れてしまった方では理論的にまったく意味が異なります。
鍼灸で全快に近い効果が期待しやすい方
正確に何%が正常なのかを判定することは難しいですが、例えば、全体の10%程度の破壊であれば、通常は他の90%の正常な部分が動きやすくなるように鍼を行ってあげることで不快症状はほぼないところまで持っていける可能性が高いです。
もともと100%胃の機能を使わないと消化できないわけではないため、胃炎が治まっただけでも不快感がちょっと残ってしまうけれど、日によっては不快感が弱い方であれば、かなり正常に近いところまで改善が期待できます。
鍼灸の効果はあるが、全快とは言えない方
例えば、60%が破壊されている場合には、残された40%の機能を高めることで、症状を軽減することはできます。
しかし、その状態を維持や継続と考えると難しいこともあります。
60%の機能が失われていると、残りの40%が不足分を多めに働くことで機能をカバーすることになります。
通常の食事で、全体で不快感がない状態には80%の力が必要だとすると、残っている40%の組織は通常の2倍の仕事をすれば、不快感がなくなる可能性があります。
しかし、2倍の仕事をさせ続けることを考えると、正常な細胞への負担がかかりすぎてしまうことが容易に考えられます。
施術直後や数日から数週間は調子が改善しても、通常の食生活をしばらくすると働きすぎた正常な40%が疲労してきて不調が出てきてしまう可能性があります。
不調にならないためには、鍼灸と合わせて胃腸への負担が少ない食生活を継続して胃への負担を抑えるなどの生活上の制限をかける必要が出てきます。
失った胃の機能は戻らない
萎縮性胃炎による胃液や胃酸を分泌する組織の減少・消失、繊維化による胃の運動機能の喪失は組織が再生しません。
症状の改善には、生き残っている組織が代わりに働く以外に機能を取り戻すことができません。
将来的に再生医療が進めば、自分のiPS細胞から胃の細胞を作って移植することで治療が可能な未来はやってくるかもしれませんが、現段階では治療法がありません。
一番良いのは、予防的に胃カメラ検査などでピロリ菌などの原因菌の有無を早期に発見し、いるようであれば除菌をあらかじめしておくことが望ましいです。
正常に機能している胃の組織がそれなりにあるのであれば、鍼灸を利用していくことで、症状の改善が期待できますので、試してみるのはよいと思います。
まとめ
機能性ディスペプシアと診断された方の中には、過去に慢性胃炎や萎縮性胃炎を経験し、すでに胃の構造や機能に不可逆的な変化が起きているケースがあります。
これにより、たとえ胃炎自体が治まっても、不快な症状が続くことがあるのです。
萎縮性胃炎は進行を止めることはできても、壊れた組織は再生しないため、残された機能をどう活かすかが鍵となります。
鍼灸は、その残された正常な組織の働きを助ける手段のひとつとして有効な可能性があり、症状の軽減が期待できます。
もちろん、すべてのケースで完治が望めるわけではありませんが、生活習慣の見直しとあわせて、少しでも快適に過ごせるよう工夫することが大切です。
今ある胃の機能を守りながら、丁寧に身体と向き合っていくことが、長期的な改善への第一歩になるでしょう。
当院での改善を希望される方は、機能性ディスペプシアをご覧ください。
遠方で当院への来院が難しいけれど、心身の問題について相談したい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。