自律神経が乱れる原因・メカニズム

自律神経が乱れるメカニズムを知れば、整え方が見えてきます。一緒に自律神経について学んでいきましょう。

自律神経とは何なのか?

私達の身体は交感神経(活動的にさせる)と副交感神経(休憩させる)という、簡単に言えばアクセルとブレーキのバランスをとることで外界(環境)に適応しています。

このアクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)の命令を行う神経をまとめて自律神経といいます。

自律神経の分類

例えば私達は昼行性の動物ですから、昼間の明るい環境にいるときは交感神経が働いて血圧や心拍数を上げ、エネルギーを多く生み出して活動的な状態に調整されます。

逆に夜の暗い環境にいる時は血圧や心拍数を下げ、エネルギーもあまり多く生み出さない休息モードになり体を休ませて細胞が活動したことで出た老廃物の排泄や傷ついた細胞の修復をして回復させようとします。

自律神経のバランスが保たれているときは、身体的に元気なだけではなく神経系も正常に働く為、メンタル(心)の状態も安定します。

多少のケガ(外傷)も治りやすく、免疫力も高く保たれるため細菌やウィルスへの感染や活性化を抑制することが出来ます。

よく原因のわからない不調を感じた際に、自律神経のせいでは?と考えるのはその通りで、原因が不明の場合は体や心の健康に関するあらゆる問題に関係している自律神経を疑うことになります。

自律神経が乱れると出てくる症状

自律神経が正常な動きをしなくなると、身体やメンタルに様々な不調を引き起こすようになってきます。ざっくり自律神経のの乱れと表現していますが、正常に機能しなくなるなり方によって症状は多種多様なものになります。

客観的な検査での異常が出るわけではない為、症状に応じて病名をつけることになりますが、症状での分類になる為、正確に分類が難しいことが多くなります。

その為、病名の判断が難しい場合に自律神経失調症(正確には病名ではありません。)として便宜的に名称を付けられますが、意味合いとしては自律神経が関連している何かの疾患であるけれど、よくわからないのが正直なところです。

自律神経失調症(自律神経症状)
肩こり、頭痛、めまい、動悸、だるさ、胃腸の調子が悪い、睡眠障害、冷え性、原因不明の痛みなど不定愁訴
パニック障害(不安障害)
突然の動悸、息苦しさ、不安感、恐怖感、手足の発汗、自律神経症状
うつ病、適応障害
気分の落ち込み、意欲の低下、朝起きられない、自律神経症状
起立性調節障害(OD)
朝起きられない、血圧が維持できない、意欲の低下、自律神経症状
機能性ディスペプシア(FD)
胃炎など特別胃の異常がないにもかかわらず、胃もたれ、食欲不振などの胃の深い症状が続く。不安や自律神経症状を伴う場合もある。
過敏性腸症候群(IBS)
下痢と便秘を繰り返しやすく、心理的な緊張と連動して腹痛が起こりやすくなる。不安や自律神経症状を伴うこともある。起立性調節障害の子供にも多い。
睡眠障害
眠れない、寝られるけれど途中で目覚めてしまう、短時間しか眠ることが出来ないという不眠症。寝ても寝ても眠たい、長時間寝ても寝足りない、などの嗜眠。

病名や症状に違いはありますが自律神経のどの機能が正常に働かなくなったのかによって病名が異なります。

どこの機能に障害が生じたのかによって症状が変化したものという点では共通する為、自律神経が乱れる仕組みを理解することが大切になります。

この自律神経のバランスを変化させる(注:乱れさせるではありません)のが内外からの刺激(ストレッサー)です。

自律神経のバランスの変化が、極端であったり長期的に本来の自律神経の反応パターンと違う反応を強いられ続けている状態が継続すると、次第に自律神経の機能が低下し、自律神経が乱れてくる原因となります。

ストレスと自律神経の関係性

自律神経は通常は体内時計に従った規則的なリズムで活動していますが、内外の状況によってバランスを変化させる(ストレッサーに反応する)ことで環境に適応しています。

ストレッサーは大きく以下の4つに分類されます。

物理的ストレッサー(温度、光、振動、騒音、人混み、過労、不規則な生活リズムなど)
生物的ストレッサー(肩こり、腰痛、胃腸の不具合、姿勢が悪い、栄養不良、血流が悪い、運動不足、睡眠不足、過労など)
社会・心理的ストレッサー(心配事、不安、悩み、怒りなど)
化学的ストレッサー(お酒、薬、環境ホルモンや大気汚染などの化学物質など)

様々なストレッサー(自分がストレスとして認識していない場合もあります。)のいずれか、もしくは複数のストレッサーにさらされると体の中でストレス反応(交感神経が優位な状態)を起こします。

ストレス

一般の方がストレスと聞くと、仕事が嫌などの心理ストレスのことを思い浮かべられる方が多いと思いますが、体の中では暑い、寒い、お腹が痛い、悪口を言われて傷ついたなど、いずれの場合も同じストレス反応が起こります。

ストレス反応とは?

ストレッサーに対抗するための反応で、簡単に言えば交感神経優位の状態を一定時間持続するようにセットして、身体的に活動的な状態を作り出し、ストレッサーを取り除く為の反応です。

副腎からアドレナリン・ノルアドレナリンとコルチゾール

大脳が危険だ!と判断した情報が視床下部にあるストレス中枢に送られ、瞬時に神経細胞がノルアドレナリンを分泌して全身の交感神経を刺激します。

脳幹にあるセロトニン神経(主にセロトニンを分泌する役割を果たす神経)にセロトニンの分泌を下げるように命令すると同時に副腎へ命令し交感神経を高めるアドレナリン・ノルアドレナリンコルチゾール(別名:抗ストレスホルモン)を分泌します。

そうすることで、交感神経が高く(活動的になる)、副交感神経が低い(緊張状態を保つ)状態を作り出し、危険に対応しやすくします。

ストレス反応は元々ライオンなどの捕食動物に遭遇してしまった時に闘争or逃走を行いやすくするために備えている正常な機能です。

ライオンなどの捕食動物

例えば、ライオンに遭遇してしまった際に、リラックスしていては食べられてしまいますから、セロトニンの分泌を抑えて交感神経が活動しやすいようにし、アドレナリン・ノルアドレナリンやコルチゾールを利用して交感神経を優位な緊張モードに保つことで捕食動物と戦うor逃げる為に筋肉がエネルギーを利用しやすい状態に体をセットします。

その結果、戦って勝つか、逃げ切るかして、危険が去ってストレスが取り除かれれば再びセロトニンの分泌量を増やして、アドレナリン・ノルアドレナリンやコルチゾールを抑制します。

そうすることで、交感神経が鎮まり、副交感神経が高まって休息が可能になる平常モードに自律神経が戻るようにしています。

ストレス反応は生き残る確率を上げるための仕組みで、私達人間が共通して持っている正常な反応です。

ストレス反応

 

ストレスは自律神経を変化させますが、ストレスがすぐに自律神経の乱れを引き起こすわけではないことに注意しましょう。

自律神経の乱れを引き起こすのは長期・強すぎるストレス

物理的・化学的・生物的・社会心理的ストレスが、短期間・適正な範囲内の強さであれば、自律神経はストレッサーに反応して、再び平常モードに戻るだけで、自律神経の乱れが生じることは基本的にはありません。

自律神経の乱れを引き起こすのは、ストレス反応が長期的または強すぎるストレッサーからの刺激を受けた際です。

https://shin2do.com/2023/08/05/%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%81%a8%e3%81%af%e4%bd%95%e3%81%aa%e3%81%ae%e3%81%8b%ef%bc%9f%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%82%92%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%82%8a%e3%82%84%e3%81%99%e3%81%8f/

ここでは、長期的ストレスが自律神経を乱していく4段階について解説させて頂きます。

第一段階

自律神経に乱れを引き起こしてしまうのは1週間以上かかり続けるような長期的なストレスです。

ストレス反応は捕食動物に狙われているなどの短期間のストレスに対処する為のシステムのため、長期間のストレッサーには脆弱な面があります。

現代は捕食動物に狙われることが極端に減った為、ストレス反応が引き起こされる要因が短期的なストレッサーによるものよりも、お金、仕事、勉強、人間関係などの長期的なストレッサーからの影響の方が圧倒的に多くなっています。

その結果、アドレナリン・ノルアドレナリンやコルチゾールが長期間分泌されて続けて交感神経を刺激し続けてしまい、交感神経が高ぶりすぎないよう抑える為にセロトニンも分泌され続けるという状態になっています。

セロトニンが交感神経を抑えてくれている間は日常生活を継続できます。しかし、ストレスがかかり交感神経が過剰に興奮した状態なので十分なリラックス状態までには持っていくことが出来ません。

その為、ストレッサーが取り除かれるまでは、眠れなくなる、緊張してお腹が痛い、下痢をする、動悸、不安感や焦燥感がでる等の症状が出ますが、ストレッサーを取り除いて、セロトニン分泌を促す軽い運動と十分な休養、適切な食事を行えば自然回復する時期です。

第二段階

ストレスがさらに長期化すると交感神経が十分に鎮まらない状態のまま、日常的にセロトニンの分泌量が多い状態が持続します。

新たにセロトニンを合成するよりも使用するセロトニン量が多くなる為、徐々にセロトニンが枯渇していきます。

分泌可能なセロトニンそのものが不足してくるとセロトニンの分泌を促す施術やウォーキングなどのリズム運動は簡単には効果を示さなくなります。

セロトニンが不足すると、アドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾールの分泌が止まらなくなり、ストレスのあるなしに関わらず交感神経が高い状態を維持するようになります。

ストレッサーがなくなっても、リラックスできない為、眠れないことで脳疲労(脳の酸化により、神経細胞そのものの機能が低下)が蓄積し、様々な脳の機能が誤作動するようになっていきます。

緊張する場面でもないのに、交感神経が突然興奮を始めたりするため、パニック発作や動悸、息苦しさ、感情が不安定になるなどの症状が出るようになります。

第三段階

アドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾールも分泌され続けたことで枯渇をはじめます。

セロトニン不足と重なって、交感神経と副交感神経が入り乱れたような症状(例えば夜眠たいのに眠れず、昼間もだるくて動けないなど)が出てくるようになります。

神経伝達物質の乱れによって以下のような自律神経失調症、パニック障害、うつ病、起立性調節障害、機能性ディスペプシアなどの症状が出てきて、その症状が生物的ストレッサーとなることでさらにストレス反応が連鎖するという悪循環がはじまります。

  • 交感神経が働き続けることで出てくる症状
    肩こり、頭痛、めまい、胃腸障害、吐き気、動悸、不整脈、倦怠感(だるい)、食欲不振、下痢、便秘、冷え、体温調整が出来ない、不眠、過呼吸(息苦しい)、喉の違和感、微熱、咳、全身の痛み
  • セロトニンが不足して出てくる症状
    焦燥感(ソワソワ)、不安感、イライラ(怒り)、感情の不安定、生活リズムが乱れる、朝起きられない、眠い、不眠、だるい、やる気が出ない、気分が沈む(抑うつ)、姿勢が崩れる、自律神経の調節が出来なくなる
  • アドレナリン・ノルアドレナリン、コルチゾール過剰分泌によって出てくる症状
    交感神経症状、免疫の乱れ(喘息、関節リウマチ、アトピーなど)、ノルアドレナリンの低下、神経細胞の機能低下および破壊
  • 長期間の分泌によりノルアドレナリンが不足して出てくる症状
    集中力低下、記憶力・学習力低下、注意力低下、血圧低下、意欲の減退、覚醒不全(朝起きられない)
  • 脳疲労によって出てくる症状
    寝ても疲れが残る、感情が不安定になる、環境の変化に耐えられない、意欲の減退、不安や恐怖に敏感になる、計画的に行動できない、集中力低下

自律神経の乱れによる症状

第四段階

コルチゾールが分泌され続けると過剰なコルチゾールを抑制する仕組みも破壊され、長期間にわたって脳内に過剰なコルチゾールがとどまるようになります。

コルチゾールは神経細胞にとっては猛毒です。コルチゾールが脳内に存在する状態が続くと、神経細胞が死滅したり、細胞の一部が破壊される(主に前頭前野や海馬の障害)ことが近年の研究でわかってきています。

神経細胞そのものが損傷されるため、神経伝達物質の量を増やしただけでは改善しなくなっていきます。進行度合いに応じて様々な治療法へ反応しずらくなっていきます。

長期間のストレスにより脳の神経細胞が死滅し、脳が萎縮することがわかっています。

第五段階(最終段階)

神経細胞の破壊や死滅が深刻化して、回復する場合であっても長期の療養が必要になります。

唯一の救いは脳の神経細胞には再生力があるため、神経細胞の再生を促す生活習慣を長期間行っていくことで、ある程度までの回復は可能性が残されている点です。

しかし、神経細胞は部位によって再生しやすいものとしにくいものがあったり、コルチゾールによってどの神経細胞が破壊されたによって回復レベルが異なります。

まだ研究が始まったばかりの分野で、脳の神経細胞も再生することまではわかってはいるものの、完全に元通りに戻るのかについては良くわかっていません。

自律神経が乱れていくメカニズムのまとめ

遺伝的な原因を除けば自律神経の乱れは長期間ストレッサーにさらされ続けることが原因となります。初期はストレッサーを取り除いて休養するのみで自然回復しますが、次第にストレッサーの有無にかかわらず、症状が出続ける状態になってきます。

次第に症状による生物的ストレスも加わるようになるため、泥沼化しやすくなります。

そのままの状態が継続すると自律神経を制御する神経伝達物質の枯渇、脳疲労、脳の炎症などにより、自律神経の状態がさらに不安定になります。

さらに進行するとコルチゾールの働きにより、脳自体が損傷を受け、回復がより難しくなっていきます。

結論

なるべく早い段階で、ストレッサーを特定して取り除き、自律神経が乱れたことによる症状による生物的ストレスも取り除いて、十分な休養を取ることで神経細胞の機能の回復、再生を促すことが大切です。