自律神経失調症・パニック障害(不安障害)・うつ病・起立性調節障害で、生い立ちを振り返る理由

こんにちは、浜松市はりを刺さない鍼灸師の佐野です。

当院では自律神経失調症、パニック障害、うつ病、起立性調節障害で来院された方に生い立ちについてお伺いすることが多いです。

スピリチュアルな話?と勘違いされてしまう方もいますが、科学的に神経の発達に関係する重要な事なので、カウンセリング中に違和感を感じた場合には幼少期の養育環境についてお話を伺っています。

今回はあなたの生い立ちがあなたの人生や病気に大きな影響を与えるメカニズムについて科学的な視点から一緒に考えていきたいと思います。ぜひ最後までご一読ください。

 結論:子供の時の養育環境はとても重要

もう何十年も前の子供の時の養育環境がなぜ今になって影響してくるのか?

そんな過去のこと覚えていないし、今の私の症状と関係ないと感じてしまうのは普通のことだと思います。

しかし、発生学、遺伝学、脳科学など様々な分野の研究が近年になって発展するにつれて、子供の時の養育環境が神経系の発達に影響を与え、それが結果的に色々な疾患に影響することがわかってきました。

まだ臨床レベルでこのような考え方をする医療者は少ないですが、確実に影響があることは様々な研究で報告されるようになってきています。

自律神経失調症、パニック障害、うつ病、起立性調節障害だけでなく、関節リウマチなど自己免疫疾患も小児期に適切な養育を受けられなかった方では発生頻度が高いことがわかっています。

これは生物学的なレベルで私達の身体にプログラムされている発達のメカニズムと深く関係しているからです。

生物としての生存戦略を決定するのが幼少期

人間を含めて多くの生物が子供→大人と成長するようになっています。バクテリアなどの生物は自分をそのままコピーする為、子供→大人といった成長の過程がありません。

いきなり大人の身体の状態で生まれてくると、出産が大変であるということもありますが、成長という過程を持つことで、生まれた環境に合わせて発達することで適応の幅を広げることが出来るというメリットがあります。

例えば、食べ物も豊富で天敵もいない環境に生まれた場合と、食べ物も乏しく天敵が多い環境に生まれた場合では、生存戦略が違います。

食べ物が豊富で天敵が少なければ、他の個体と食べ物を奪い合う行為は自分の身体を危険にさらすだけなので、穏やかな性格で攻撃性が低い方が生存に有利です。

また、天敵がいない環境であれば周囲の警戒をそれほど厳重にする必要性はありませんし、十分にリラックスした方が体が十分な休息をとれるため、健康に良く副交感神経が高く長寿になり易くなります。

しかし、食べ物が乏しく天敵が多い場合には、他の個体から奪ってでも食べ物を得なければ死んでしまいますから、攻撃性が高い性格である方が、食べ物を確保しやすく生存に有利です。

また、天敵が多ければある程度の緊張感をもって周囲を警戒していた方が生き残りに有利になる一方、リラックスして身体を十分休息させてしまうと自分が捕食されてしまう危険性が高まる為、健康には悪くても、寿命よりも早くに捕食されるリスクを下げ、結果的に環境に最も適応した戦略となります。

前者と後者のどちらかにはっきり分かれるというわけではありませんが、前者寄りである人ほど自律神経系の問題は抱えにくく、後者より程自律神経系の問題は抱えやすい状態になります。

現代における危険な幼少期の環境とは?

・両親や家族間でケンカが多かった。
・両親の離婚・死別・別居。
・病気や障害を持った家族や犯罪を犯した家族と一緒に暮らしていたことがある。
・子供に身体的・心理的に傷つける行為をしたことがある。
・性的虐待。
・食事・衣服・住居などが不足し、大人に保護されない状況で過ごしたことがある。
・子供が愛や支えや保護がないと感じていたことがある。
・周囲の大人の一貫性のない態度で危険が予測できない。

このような環境で幼少期を過ごした子供は、危険な環境に適応した神経の発達をしやすくなります

前述したように、食べ物が乏しく、天敵が多い環境で育った場合と同じような神経系の発達をさせることで環境に適応しようとします。

その結果、次第に現代社会にうまく適応できなくなってしまい様々な病気を発症するようになるのです。

危険な環境に適応した身体に何が起こるのか?

自律神経系は外的な環境に適応するためのシステムです。
近くにライオンなどの捕食動物がいれば緊張して戦うか・逃げるかに適した状態になり、安全が確保されればリラックスして休息します。

その危険と安全のバランスによって、交感神経が優位な状態・副交感神経が優位な状態どちらになるのか?危険に素早く対応するためのシステムである感情が重視されるのか、長期的な計画性を立てる論理性が重視されるのかなど、脳の得意な使い方が決まってきます。

危険な環境に適応すると副交感神経優位な状態になりにくく、常日頃から交感神経が高い状態を維持しながら生活するといった身体状態へと発達します。

これは異常ではなく、もしあなたがアフリカのサバンナなど天敵が多い環境に産み落とされたとしたらそういった状態に発達した方が、結果的に一番長く生き残る確率が高まるからです。

しかし、天敵が少ない安全な環境では特別危険がないにもかかわらず、交感神経が常に高い状態が維持される為、自律神経系の問題に悩まされる原因となります。

また、危険をいち早く察知して対応するように最適化されるため、音、匂い、光、他人の視線や表情など、わずかな情報も見落とさないように感覚やちょっとした変化に過敏に反応しやすくなりますし、少ない情報からも最悪の状態を瞬時に想定します。

最近、HSPという概念が広まりましたが、自閉症スペクトラムなどの遺伝レベルでの感覚過敏とは別に、幼少期に危険な環境に適応した方の特性としてHSPで言われるような症状が出やすくなります。

危険な環境に適応した人は、安全な社会の中でも危険に備える為、生きずらさを抱えやすくなり、安全な社会に適応する特性とは真逆の特性を身につけます。

危険な環境に適応した人が社会で感じる生きづらさ

危険な環境に対する適応は、その方の生存戦略です。その為、対人関係なども含め社会への適応度が低下します。

安全な環境で育った方が社会への適応度が高いことは知られていますが、それは現代社会が安全な環境であるからです。

安全な環境であるにもかかわらず、危険な環境に適応した結果以下のような問題を抱えやすくなります。

・他者を信頼できない。(裏切られることを警戒する。)
・少しの悪いことでも非常に不安になる。(ネガティブな未来を予想しやすい。)
・他人が自分のことを攻撃してくるような感じがする。(人の目が気になる。)
・適切な形での自己表現が出来ない。(我慢するか、攻撃的なコミュニケーションになる。)
・自己開示が出来ない。(弱みを見せると攻撃を受ける可能性が高いと考える。)
・助けを求めることが出来ない。(弱っていると見捨てられたり攻撃を受ける可能性がある。)
・完璧でなくてはならない。(他者は役に立たない自分を拒否する。)
・他者に対して攻撃的になる。(相手より優位でないと不安。)
・わずかな表情の変化など少ない情報から、相手の心理を推測する。(少ない情報から推測したことを真実だと誤認しやすい。)

根本的な改善は認知行動療法が有効

このように危険な環境に適応てしまった方は、交感神経が高くなりやすいうえに、対人トラブルに巻き込まれやすく、ネガティブな未来予想をすることでストレスがかかってきやすいという悪循環が発生します。

その結果ストレス過多となり、不安障害、うつ病、自律神経失調症、起立性調節障害などの症状に悩まされることになります。

認知行動療法(CBT)によって、なるべくニュートラルに目の前に発生している出来事を観察できるようになるトレーニングや自分の認知の歪みを修正していくことで、不要な交感神経の優位を解消していくことが重要になってきます。

まとめ

・幼少期の環境により、神経系がどのように発達するのかに大きな影響がある。

・幼少期はその人の基本的な生存戦略を獲得する時期である。

・生存戦略を意識しない限り、幼少期に獲得した生存戦略を続けていく。

・危険な環境に適応した生存戦略では、交感神経優位で自律神経系の問題を抱えやすい。

・根本的には認知行動療法などの心理療法が有効。

当院での改善を希望される方は、パニック障害自律神経失調症うつ病起立性調節障害ご覧ください。

遠方で当院への来院が難しいけれど、心身の問題について相談したい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。