こんにちは、浜松市はりを刺さない鍼灸師の佐野です。
リラックスするためには深呼吸をしましょう。緊張した時は深呼吸。自律神経を整えるのにも深呼吸と、色々なところで深呼吸といわれます。
深呼吸というと胸いっぱいに息を吸うことをイメージされているのではないでしょうか?しかし、医学的に考えると胸いっぱいに息を吸い込んでも緊張も落ち着いてこないですし、自律神経も安定する科学的な理由が特別ありません。
TVやYoutubeなどで胸いっぱいに息を吸うことを深呼吸と表現されていることが多く、それが定着してしまっているのでは?と思います。
今回は間違った深呼吸についてなぜ間違っているのか?を解説させて頂きながら、深呼吸とはどういうことなのかについて一緒に考えていきたいと思います。是非最後までご一読ください。
結論:良い呼吸は小さい腹式呼吸
深呼吸というと、TVのメディアや雑誌などでも紹介されることが多いのですが、医学的に考えると得たい効果と紹介されている呼吸の方法が間違った状態で、深呼吸に関する情報が定着してしまっています。
一般的に言われる大きく肺いっぱいに空気を取り込む深呼吸は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を持っている方が行うのにはお勧めできる呼吸法です。
胸いっぱいにより多くの空気を取り入れることで、より多くのガス交換(酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す)を行うことが出来る為です。
これだけ聞くと効果としては健康によさそうなイメージを持たれる方も多いかと思いますが、普通の人であれば、実はそんなに大きく呼吸しなくても酸素の取り込みは十分できています。
SPO2といって指先に機械をつけてどれだけ血液中の酸素の量をはかるとほとんど方は96%以上あります。
つまり、さらに酸素を取り込もうと胸いっぱいに息を吸い込んだところで、それ以上血液中に酸素を取り込むことが出来ないのであまり効果がありません。
そして、二酸化炭素を沢山吐き出してしまうと今度は細胞の酸欠を促進して、代謝が低下してしまうので、積極的に胸いっぱいに空気を取り込むような呼吸法は健康な人であればあまり必要ないことが多いのです。
大きく肺いっぱいに空気を取り込んではいけない理由
呼吸をする目的は、血液中に酸素を取り込むこと、そして血液中の余分な二酸化炭素を吐き出すことです。これを肺呼吸、外呼吸といいます。
血液中に入った酸素は赤血球にくっついて移動し、酸素を必要とする細胞へ酸素を受け渡します。細胞で発生した不要な二酸化炭素は血液中へと溶け込みます。
細胞が酸素を取り込み二酸化炭素を排出する為、細胞呼吸と呼ばれます。
窒息して呼吸が出来ず酸素が不足すると、酸欠で死んでしまうというのは皆さんご存じかと思います。
しかし、二酸化炭素が不足しても細胞レベルでは酸欠を起こしてしまうということはご存知でしょうか?
二酸化炭素を吐き出している為、二酸化炭素は悪いものというイメージがついていますが、二酸化炭素は人体にはなくてはならない重要な物質です。
どういうことかというと、酸素は赤血球に張り付いて運ばれますが、赤血球から細胞に酸素が渡される際に、二酸化炭素が赤血球から酸素をはがす役割をするからです。
その為、二酸化炭素を吐き出しすぎてしまうと、赤血球が大量の酸素を運んでいたとしても、そのまま体の中をぐるぐる回っているだけで、細胞に酸素が供給されません。
つまり、大きく肺いっぱいに空気を取り込む呼吸を行うと必要な量の二酸化炭素まで体の外へ吐き出してしまいやすくなるため、細胞レベルでは酸欠を起こしてしまうのです。
この二酸化炭素不足がひどくなったものが、過換気症候群(過呼吸)です。細胞が酸欠を起こす為、血中酸素濃度が高いのに息苦しさを感じるという矛盾した症状が出てきます。
これが、大きく胸いっぱいに空気を取り込む呼吸がお勧めできない理由です。
大きく呼吸しても取り込める酸素の量は変わらない
前述した指先につけて酸素の飽和度を調べるパルスオキシメーターという機械が市販されていますが、この機械で実際に血中酸素飽和度を計測すると健康な肺を持っている人であれば、普通の呼吸をしていれば酸素飽和度は95%以上(ほとんどの人が、98~99%と表示されます)で、大きく変化しません。
慢性閉塞性呼吸器疾患など肺で酸素を取り込む能力が低下してしまう疾患でない限り、ほぼ100%に近いレベルで酸素を取り込めています。
改めて大きく呼吸することで得られるメリットは、「呼吸筋のストレッチ」と「交感神経と副交感神経を同時に刺激」することです。
胸いっぱいに息を吸い込んで多くの酸素を取り込みましょう。という言葉がけで呼吸法をされることがありますが、大きく空気を吸い込んでも肺で酸素を血液中に取り込むための赤血球が十分なレベルで酸素を取り込んでいるので、それ以上多くの酸素を多く取り込めるわけではありません。
前述した慢性閉塞性呼吸器疾患などにかかられている方の場合は、酸素飽和度が普通の呼吸だけでは十分な酸素を取り込むことが出来ない為、大きな呼吸をすることに意味が出てくるのです。
二酸化炭素が増えると代謝が上がる?減ると代謝が下がる?
血液中の二酸化炭素濃度に比例して、細胞への酸素の取り込みが促進されます。(ボーア効果といいます。)
簡単に言えば、適正範囲内であれば、体内にある二酸化炭素が多いほど、細胞により多くの酸素が供給されやすくなるということです。
人の細胞は酸素を作ってエネルギーを作り出しますので、細胞への酸素の供給量が増えれば、原理上は代謝は向上し、細胞がより多くのエネルギーを利用して、元気に活動を行えるようになります。
中学の理科の実験で、酸素を閉じ込めた瓶の中で物を燃やすと激しく燃焼するという原理と基本的には同じです。酸素とブドウ糖が細胞内で化学反応を起こすことでより多くのエネルギーを得ることが出来ます。
逆を言えば、過換気症候群(過呼吸)ほどの状態ではないにしても、体内にある二酸化炭素が少ない状態は、細胞へ供給される酸素が少なくなる為、細胞が利用できるエネルギーが少なくなり、細胞一つ一つ代謝が低下すると考えることが出来ます。
他にもある二酸化炭素の健康効果
また、二酸化炭素には脳血流量を増大させる効果があります。体内の二酸化炭素濃度が適正になると、脳への血流が良くなり、頭が働きやすくなります。
脳は非常に多くのエネルギーを必要とする場所で、脳が体重に占める割合は20%であるのに対し、脳での酸素消費量は40%もあると考えられています。
その為、前述のボーア効果と脳血流の増加により、心理面で安定、やる気の増加、神経疲労の軽減、睡眠の質の向上など、様々な恩恵が受けられるようになります。
しかし、二酸化炭素の吸引は失神につながる為、危険なので行わないでください。
お勧めの呼吸法
当院でも指導させて頂く呼吸の具体的な方法については関連記事をご参照ください。
まとめ
・大きく肺いっぱいに空気を取り込む呼吸は、細胞レベルの酸欠を誘発しやすい。
・大きく肺いっぱいに空気を取り込んでも、取り込める酸素の量は変わらない。
・二酸化炭素を吐き出し過ぎると、細胞レベルの酸欠が発生しやすくなる。
・適正範囲内であれば、二酸化炭素の量に比例して、細胞の代謝向上が期待できる。
・脳血流増大にも二酸化炭素は役立つ。
当院での改善をご検討の方は自律神経失調症、パニック障害をご覧ください。
遠方で来院が難しいけれど、生活習慣や改善について相談したい方はオンラインカウンセリングをご利用ください。